『経済ってそういうことだったのか会議』 第2章 その2

前回の記事の続きである。

armik.hatenablog.jp

ダウって何?

ダウ平均(ダウ工業株30種平均(Dow Jones Industrial Average - DJIA))は、30の会社の平均株価を求めて、マーケットが今どの方向に向いているかの手がかりにする指標の一つである。強気(上昇)か弱気(下降)かをブリッシュ、ベアリッシュと呼ぶ。

ブリッシュ(bullish):強気のこと。牛は角で突き上げることから。
ベアリッシュ(bearish):弱気のこと。熊は上から下に振り下ろすことから。
これを調べ始めたのはチャールズ・ダウとエドワード・ジョーンズという二人である。

ダウ・ジョーンズとは、アメリカの経済新聞「ウォールストリート・ジャーナル」の発行元であるアメリカの経済関連の出版社、通信社である。

2007年にニューズ・コーポレーションにより買収され、現在はニューズ・コーポレーションの子会社である「Ruby Newco LLC」の完全子会社である。

2010年にニューズ・コーポレーションは、ダウ・ジョーンズのインデックス算出事業の株式の9割を、シカゴ・マーカンタイル取引所グループに売却、2012年7月以降、ダウ・ジョーンズのインデックス算出事業は、S&P ダウ・ジョーンズ・インデックスに移行した。

ダウ・ジョーンズ - Wikipedia

現在では売却されており、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスがダウ平均株価の計算と発表を行っている。他にも「ダウ輸送株20種平均」、「ダウ公共株15種平均」がある。
別の有名な指標としてS&P500がある。これは主要な500銘柄の株価を時価総額で加重平均を取って算出する指標である。

一方、日経平均は225社の平均を取っている。どの会社を選んで平均を取るかによって結果が変わってくるため、盲信するのは危険である。

竹中:ダウみたいに本当にちゃんとした三十社だけうまく選んだら、日本の株価はそれほど悪くないんだという説もある。実はそこで毎日新聞が日経に牙をむいたわけですね。日経の独占市場に毎日が食い込もうとしたわけです。

それがJ30というらしい。

竹中:これは、30社なんです。日経はとにかく多ければいいだろうということで多くの会社を集めているが、うちは違う考えですっていうことを、たぶん、毎日はアピールしたんでしょう。

wikipediaによれば、これは日経新聞以外の全国紙が公表していた唯一の指標らしいのだが、2005年以降公表されていないらしい。 J30がどうなってしまったのかはよく分からない。

増資とは?

佐藤:よく増資っていう言葉を耳にするんですけど、あれはどういう意味なんでしょう。

竹中:資本金を増やすことです。つまり、株式を新たに発行するんです。株式の取引というのは今出回っている株式を流通させることです。増資というのは、新たに株式を出して、今後流通させるわけです。 佐藤:だけど、今まで株を持ってた人にとったら、一枚の株の価値が下がりますよね。単純に考えると、怒らないんでしょうか?

竹中:すごくいい質問です。だから株主総会を開かなきゃいけないんです。

佐藤:でも、ふつう考えるとやめて欲しいですよね。それとも、この会社がより大きくなるためにそれが必要だと判断すれば、それは認めるということですか。

竹中:まさにその通りです。

なるほど。

『経済ってそういうことだったのか会議』 第2章 経済のあやしい主役 ~株の話~

そもそも株とは何か?これを考えるには、まず株がいつ、どのようにして生まれたかを見てみるのが良いだろう。

 

世界最古の株式会社

世界最古の株式会社は、東インド会社である。東インド会社は主に貿易と植民地経営をしていた。東インド会社はイギリスのもの(1600年設立)とオランダのもの(1602年設立)がある。それぞれがお金を出し合い、東インド諸島や東南アジアなどに香辛料などを買い付けに行く資金とする。それを売って得た利益を、出した金額に応じて分け合う。これが株式会社のはじまりである。

竹中:企業を始めようと思ったら、まとまった大きなお金がいりますよね。そのお金は、その企業の基本的な所有者、つまり株主が出すか、他人から借りるか、この二つしかないわけです。このお金を調達する二種類の方法の中でも特に重要な部分が、株主が出す部分です。初期の会社というのはとても単純で、株主が一度出資して一つのプロジェクトをやり遂げたらそれで終わり、解散なんです。

事業が軌道に乗ってくると、毎回のプロジェクトにお金をいちいち出したり返したりするのは面倒になってくる。そこで、利益を分配せずにそのまま次のプロジェクトに向かう、というような継続的な組織になっていく。ただ、そうやって出資金を拘束してしまうと問題も出てくる。出資金を何らかの理由で返してほしい、となった場合だ。

竹中:出資金を返したら、そのために会社がつぶれてしまうと大変ですよね。そうならないように、お金を出資した人たちが「自分の権利」というものを、たとえば十とか二十に割って、それを紙切れの証文にして、その権利を売買するようになったわけです。それが株なんですよ。

このように細かく分割することで、大金持ちでなくとも投資に参加できるようになる。投資先も分散させることができる上、会社がもし倒産しても失うのは出資金のみであり、責任は有限である。このように、会社やその利益を株主で共有することから、株のことを投資家の目線から見て、「シェア」という。一方、会社から見た株のことは「ストック」という。貸借対照表における純資産に割り振られることに対応しているようだ。両者は目線が異なるだけで、同じものを指す。

OED(Oxford English Dictionary)では次のように説明されている。

  • share:one of the equal parts into which a company's capital is divided, entitling the holder to a proportion of the profits (会社の資本金を等分割したものの一単位であり、その所有者は利益の一部を受け取る権利を持つ)
  • stock:the capital raised by a business or corporation through the issue and subscription of shares (株式の発行や引き受けを通じて、事業や法人によって集められた資本)

確かにshareは株主目線であり、stockは企業目線のようだ。

このように株によって資金集めをしている会社を株式会社という。資金集めを株主に頼ることなく、自前で行っている会社もある。

 

株価を動かしているものは何?

佐藤:株価が経済を反映するということはわかるんですが、そもそもどのように株価は上がったり下がったりするんですか?

竹中:株主は、会社が上げた利益の配当をもらうんです。これは私が投資したことに対するいわゆるフルーツ(果実)ですね。たとえば100円の元手があって100円投資したことに対して5円戻ってきたとすると、利回りは5%です。さて、私が同じ100円を株じゃなくて銀行に預ける、あるいは社債とか別の運用の仕方を考えたとします。そのときの広い意味での金利の利回りが3%だったとしましょう。株がもし預金や社債と同じように安全だとしたら、私は株を買います。誰でもそうですよね。じゃあ、みんなが株をどんどん買っていったらどうなるか。株の値段が高くなります。(中略)株価がいままでの倍の200円になっても配当が5円のままなら、利回りは2.5%になります。そうなると、金利の方が相対的に高くなるから今度は株を売って銀行に預けますね。すると、株が安くなる。どこまで安くなるかというと、金利と株価(配当の利回り)が均衡するところまでということになるんですね。

もちろん株式の方がリスクが大きいため、実際には均衡しない。金利は何によって決まるのかと言えば、お金の需要と供給である。すなわち、お金の量を調整することで操作することができる。それが中央銀行の役目である。中央銀行が何もしない時、株価が下がれば金利は上がる。金利を下げることで、株価が上がると考えられる。第一章で取り上げたお金の供給量はこのような形で株価に関わってくる。

 

つい一週間ほど前に、アメリカの長期金利が3%に復帰したニュースがあった。

長期金利:世界で上昇 米が3%台、懸念される負の影響 - 毎日新聞

この記事では金利の上昇に伴う株価の下落が懸念されている。一方日本はゼロ金利政策を続けており、それで株価の下支えをしている状況である。そのため、上述した株式-通貨の利回りの差ではなくドル-円の金利の差によって円が売られ、ドルが買われるという構図になる。すなわち、円安ドル高が進むと考えられる。

 

経済議論のキーワード「期待」

ある企業を所有しようと思ったら、株をすべて買い占めてしまえばよい。そうなると株価の合計がその企業の価値(値段)ということになる。その企業の価値は何によって決まるかと言えば、理論上は「期待と金利」である。

具体的には次のように考える。

まず、その企業が未来にどれだけの利益を上げられるか計算する(期待する)。

ただ、今の10,000円と来年の10,000円は価値が違う。今の金利が1%だとすると、今の10,000円は来年には10,100円になっているはずである。逆に言えば、来年の10,000円は今の価値で言えば9,901円(=10,000/1.01)ということになる。これを割り引くという。再来年の10,000円はさらにこれを金利で割ればよい。

このようにして、割り引かれた未来の利益を足し合わせることで企業の価値が算定される。割り引きの話は投資を語る上で欠かせない概念なので忘れないでおきたい。

 

 

会社は一体誰のもの? 経営と所有の分離

会社の所有者(オーナー)は株主であるが、オーナーが経営をするとは限らない。自分で経営をせずにプロの経営者を雇ってマネジメントしてもらうことがよくある。しかしながら、オーナーは経営者に仕事を振って終わり、というのでは経営者に何をされるかわかったものではない。オーナーには経営者が適切に経営しているかをチェックする義務があるだろう。これがコーポレートガバナンスという考え方であり、株主総会はそのチェックを行う集まりである。

ただ、日本の場合は企業の株主が別の企業であることが少なくない。これではチェック機能が働かない。

佐藤:会社は誰のものかっていう話でいうと、例えば僕が電通の社員だったとき、電通って自分の会社だと思うわけですよね。社内には「電通マン」なんていう言葉があって、みんなも自分で「電通マン」だと思ってる。(中略)まさに「わが社」っていう意識なんですよ。僕、四十歳のとき、退職するわけですよね。ところが電通マンの証である社章のバッジを返してしまったら、次の日から会社とは全然関係ないんです。(中略)ただそこに箱があって、そこで一生懸命働いてた一人だったんですよね。

オーナーが明確でないからこそ皆が「わが社」という意識で働けるのだ、という説もあるらしい。また、コーポレートガバナンスが行き渡らなかったがために、会社は配当を出さずに済み、内部留保を設備投資に回すことができたと竹中は言う。このために日本は短期間で急成長することができたらしい。

佐藤のような意識を持つ人は今でも多いと思う。この意識を持つことは決して悪いことではないのだろうが、株式会社の所有者はあくまでも株主であることは頭に留めておきたい。

また、配当の多寡については比較が難しいが、今期に限って言えば、たとえば

と、(相手が米国有数の高配当株であるというのはさておき)日本の会社は利回りが低いというのは今でも変わりないように思える。ただ、ここ数年日本はゼロ金利政策を続けており、配当利回りに対する要求が低いということも考えるべきだろう。すなわち、企業の配当性向というよりも金利の問題ではないか、ということだ。

こんなサイトがあった。

日米実質金利差の見通し | 総会おじさんの株式投資ブログ

ところどころ金利差がマイナスになっている(利回りが円>ドル)期間もあるが、おおむね米ドルの方が利回りは大きいように思える。

配当性向に対する金利の影響を考慮するには、金利差がマイナスになっている期間(2006・2008・2012年)で配当がどうなっていたのかを調べる必要がある。また、箇条書きにした業種以外のものについても調べる必要があるだろう。

 

調査が不十分な上、まだ2章は終わっていないのだが、長くなったので記事を改める。

『経済ってそういうことだったのか会議』 第1章 お金の正体

頭にとどめておくべきだと思ったことをまとめる。

 

まず、お金とは何か?という問いを考える。

竹中:お金には三つの違った使い方があるんです。まず第一は、何か価値のあるものを測るときの尺度としての使い方。(中略)お金は「別のお金の尺度」にもなるんです。つまり、今1ドルが105円というレートがあるとすると、これはドルというお金の価値を測るときに、円というお金がその尺度になってるわけです。

(中略)

そしてお金の第二の使い方、これはあるものを別の何かと交換するときの手段としての使い方がありますね。(中略)よく貿易で「ドル建て」とか「円建て」という言葉を使いますけど、これはつまり、ドルと円のどちらの単位で表示して、それを交換の手段にしますかということなんですね。

(中略) 

価値を貯めるための手段として、お金は重要な役目をもっているんです。(中略)円とかドルとかを、価値を貯める手段としてるわけです。そうすると、円とドルは常にイコールじゃないですから、必ずどちらかが上がったり下がったりするわけですね。つまり将来ドルが下がると思ったらドルを売るんですよ。逆もありえますね。結局、ドルが金(ゴールド)の裏付けがなくなってもお金、マネーであり続けたというのは、この三つ目の役割を果たしていたという理由が最も大きかったんですね。つまり、「ドルの国アメリカは大丈夫だ」という、アメリカに対する信頼感なんですよ。

お金とは次の条件を満たすものだと言える。

  • 価値の尺度
  • 交換の手段
  • 貯蔵の手段

お金そのものに価値があるとは限らない。そのため、お金というものは皆がそれをお金として使えると思うこと、すなわち信用することによって初めて機能する。信用されていなければ、この三要件を満たすことはできない。したがって、ある通貨が高いか安いかは、その通貨の信用問題であると言える。通貨がお金として機能しているか否かはその国の経済活動に影響するため、国は自国通貨の価値の変化や流通量に目を光らせている。

しかしながら、通貨だけがお金ではない。三要件を満たしていれば、中央銀行が発行している通貨でなくともお金として扱われる。その規模が大きい場合、そのお金が経済活動に与える影響を無視できない。

佐藤:個人の間でお金の貸し借りをしているうちに、つまり紙幣のやり取りをしなくても、小問一枚がお金の代わりに流通しだすことってありますよね。そうなると、お金は貨幣という形がなくても勝手に増えていきますよね。

竹中:それはまさに手形の話ですよね。「お金とは何か」と突き詰めていくとなかなか難しいんです。財布の中に入っている現金これは誰が見てもお金ですよね。(中略)じゃあ、銀行預金はどうかと考えると、これも三つの要件をすべて満たしてますよね。

定期預金、国際、株、自動車などもお金として考えられなくもない。どこで線引きをするのか?

竹中:現実に経済の議論をするとき、我々はマネーの種類をM1、M2、M3と分けるんですが、これはM100までもM200まででも作れるんです。M1っていうのは現金です。M2っていうのは預金まで。M3になると今度は貯蓄性の預金が入ってくる。(中略)通貨当局はこのマネーの量を増やしたり減らしたりして経済をよくしたり抑えたり調整するんですが、この時どのマネーを見ればいいのかというと、これが難しいんです。具体的に言うと、日本ではM2+CDを見てるんです。アメリカではM1を見てるんです。これは、過去に経済の実態とどのマネーが一番相関してるかということを検討した結果なんです。今の見方が絶対に正しいかどうかは誰にもわかりませんし、また今後変わる可能性もあります。

CD(Certificate of Deposit):譲渡性預金 高めの金利を上乗せして預金者が特定の市場で自由に売買できる定期預金証書のこと。

要は現金と預金、そしてCDを基本的には見ているということらしい。ただ、この本は2002年に出版されたものであり、M1やM2は現在の定義と異なっている。日銀のHPによれば、

マネーストック統計には、通貨の範囲に応じてM1、M2、M3、広義流動性の4つの指標があります。これらの指標の定義は、次の通りです。

M1=現金通貨+預金通貨(預金通貨の発行者は、全預金取扱機関)
現金通貨=日本銀行券発行高+貨幣流通高
預金通貨=要求払預金(当座、普通、貯蓄、通知、別段、納税準備)-調査対象金融機関保有小切手・手形

M2=現金通貨+預金通貨+準通貨+CD(預金通貨、準通貨、CDの発行者は、国内銀行等<マネーサプライ統計のM2+CD対象預金取扱機関と一致>)

M3=現金通貨+預金通貨+準通貨+CD(預金通貨、準通貨、CDの発行者は、全預金取扱機関)広義流動性=M3+金銭の信託+投資信託金融債+銀行発行普通社債+金融機関発行CP+国債+外債

マネーストック統計のFAQ : 日本銀行 Bank of Japan

とのことであり、この本で言うM2が現在のM1に、M2+CDが現在のM2に対応している。どうも2008年よりマネーサプライという言葉ではなくマネーストックという言葉を使うようになったらしい。このFAQは結構読みごたえがあり、基本的なことも書いてあるので参考になる。

日銀のサイトでは統計をグラフで見られるので、さっそくM2を見てみる。

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日本銀行時系列統計データ検索サイト

 

オレンジの折れ線はM2/平残前年比(%)/マネーストック(2004年3月以前はマネーサプライ)、データコード:MD02'MAM1YAM2M2MO であり、緑線はM2/平(億円)/マネーストック、データコード:MD02'MAM1NAM2M2MO である。灰色に塗られている期間は景気後退期を表している。

解像度が低くて恐縮だが、2003年あたりから見ると、M2は15年ほどで約1.5倍に増えている。これは年率では2.5%程度であり、2~4%を推移しているオレンジのグラフに対応する。また、2013年から4%を超えるようになっているのはアベノミクスによる影響だと考えられる。ただ、バブル以前と比べると増加速度は緩やかである。

一方アメリカのM2を見ると、ここ15年で2倍以上になっている。単純に考えれば円はドルに対して高くなっているように思えるが、15年前は1ドル100円程度であったことを考えると、為替レートに大きな変化は見られない。もっとも、アメリカのM2にはCDが含まれず、CDが含まれたものはM3と呼ぶため、一概に比較できないのだが。

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Money supply - Wikipedia

知識も乏しいため、議論としては中途半端になってしまったが、これまで見向きもしなかった統計情報に少しは踏み込めたかと思う。やはり疑問として残るのは、アメリカのM2の増加に対して日本のM2の増加が不十分であるのに、為替レートが変わっていないという点である。この原因は

  • 日本円の方が信用度が低く、その分値上がりしにくい
  • 流通量に価格が反映されるのには時間がかかる

などが考えられるがどうなのだろうか?学習を続けたい。

経済ってそういうことだったのか会議 (日経ビジネス人文庫)

経済ってそういうことだったのか会議 (日経ビジネス人文庫)