『経済ってそういうことだったのか会議』 第1章 お金の正体
頭にとどめておくべきだと思ったことをまとめる。
まず、お金とは何か?という問いを考える。
竹中:お金には三つの違った使い方があるんです。まず第一は、何か価値のあるものを測るときの尺度としての使い方。(中略)お金は「別のお金の尺度」にもなるんです。つまり、今1ドルが105円というレートがあるとすると、これはドルというお金の価値を測るときに、円というお金がその尺度になってるわけです。
(中略)
そしてお金の第二の使い方、これはあるものを別の何かと交換するときの手段としての使い方がありますね。(中略)よく貿易で「ドル建て」とか「円建て」という言葉を使いますけど、これはつまり、ドルと円のどちらの単位で表示して、それを交換の手段にしますかということなんですね。
(中略)
価値を貯めるための手段として、お金は重要な役目をもっているんです。(中略)円とかドルとかを、価値を貯める手段としてるわけです。そうすると、円とドルは常にイコールじゃないですから、必ずどちらかが上がったり下がったりするわけですね。つまり将来ドルが下がると思ったらドルを売るんですよ。逆もありえますね。結局、ドルが金(ゴールド)の裏付けがなくなってもお金、マネーであり続けたというのは、この三つ目の役割を果たしていたという理由が最も大きかったんですね。つまり、「ドルの国アメリカは大丈夫だ」という、アメリカに対する信頼感なんですよ。
お金とは次の条件を満たすものだと言える。
- 価値の尺度
- 交換の手段
- 貯蔵の手段
お金そのものに価値があるとは限らない。そのため、お金というものは皆がそれをお金として使えると思うこと、すなわち信用することによって初めて機能する。信用されていなければ、この三要件を満たすことはできない。したがって、ある通貨が高いか安いかは、その通貨の信用問題であると言える。通貨がお金として機能しているか否かはその国の経済活動に影響するため、国は自国通貨の価値の変化や流通量に目を光らせている。
しかしながら、通貨だけがお金ではない。三要件を満たしていれば、中央銀行が発行している通貨でなくともお金として扱われる。その規模が大きい場合、そのお金が経済活動に与える影響を無視できない。
佐藤:個人の間でお金の貸し借りをしているうちに、つまり紙幣のやり取りをしなくても、小問一枚がお金の代わりに流通しだすことってありますよね。そうなると、お金は貨幣という形がなくても勝手に増えていきますよね。
竹中:それはまさに手形の話ですよね。「お金とは何か」と突き詰めていくとなかなか難しいんです。財布の中に入っている現金これは誰が見てもお金ですよね。(中略)じゃあ、銀行預金はどうかと考えると、これも三つの要件をすべて満たしてますよね。
定期預金、国際、株、自動車などもお金として考えられなくもない。どこで線引きをするのか?
竹中:現実に経済の議論をするとき、我々はマネーの種類をM1、M2、M3と分けるんですが、これはM100までもM200まででも作れるんです。M1っていうのは現金です。M2っていうのは預金まで。M3になると今度は貯蓄性の預金が入ってくる。(中略)通貨当局はこのマネーの量を増やしたり減らしたりして経済をよくしたり抑えたり調整するんですが、この時どのマネーを見ればいいのかというと、これが難しいんです。具体的に言うと、日本ではM2+CDを見てるんです。アメリカではM1を見てるんです。これは、過去に経済の実態とどのマネーが一番相関してるかということを検討した結果なんです。今の見方が絶対に正しいかどうかは誰にもわかりませんし、また今後変わる可能性もあります。
CD(Certificate of Deposit):譲渡性預金 高めの金利を上乗せして預金者が特定の市場で自由に売買できる定期預金証書のこと。
要は現金と預金、そしてCDを基本的には見ているということらしい。ただ、この本は2002年に出版されたものであり、M1やM2は現在の定義と異なっている。日銀のHPによれば、
マネーストック統計には、通貨の範囲に応じてM1、M2、M3、広義流動性の4つの指標があります。これらの指標の定義は、次の通りです。
M1=現金通貨+預金通貨(預金通貨の発行者は、全預金取扱機関)
現金通貨=日本銀行券発行高+貨幣流通高
預金通貨=要求払預金(当座、普通、貯蓄、通知、別段、納税準備)-調査対象金融機関保有小切手・手形M2=現金通貨+預金通貨+準通貨+CD(預金通貨、準通貨、CDの発行者は、国内銀行等<マネーサプライ統計のM2+CD対象預金取扱機関と一致>)
M3=現金通貨+預金通貨+準通貨+CD(預金通貨、準通貨、CDの発行者は、全預金取扱機関)広義流動性=M3+金銭の信託+投資信託+金融債+銀行発行普通社債+金融機関発行CP+国債+外債
とのことであり、この本で言うM2が現在のM1に、M2+CDが現在のM2に対応している。どうも2008年よりマネーサプライという言葉ではなくマネーストックという言葉を使うようになったらしい。このFAQは結構読みごたえがあり、基本的なことも書いてあるので参考になる。
日銀のサイトでは統計をグラフで見られるので、さっそくM2を見てみる。
オレンジの折れ線はM2/平残前年比(%)/マネーストック(2004年3月以前はマネーサプライ)、データコード:MD02'MAM1YAM2M2MO であり、緑線はM2/平(億円)/マネーストック、データコード:MD02'MAM1NAM2M2MO である。灰色に塗られている期間は景気後退期を表している。
解像度が低くて恐縮だが、2003年あたりから見ると、M2は15年ほどで約1.5倍に増えている。これは年率では2.5%程度であり、2~4%を推移しているオレンジのグラフに対応する。また、2013年から4%を超えるようになっているのはアベノミクスによる影響だと考えられる。ただ、バブル以前と比べると増加速度は緩やかである。
一方アメリカのM2を見ると、ここ15年で2倍以上になっている。単純に考えれば円はドルに対して高くなっているように思えるが、15年前は1ドル100円程度であったことを考えると、為替レートに大きな変化は見られない。もっとも、アメリカのM2にはCDが含まれず、CDが含まれたものはM3と呼ぶため、一概に比較できないのだが。
知識も乏しいため、議論としては中途半端になってしまったが、これまで見向きもしなかった統計情報に少しは踏み込めたかと思う。やはり疑問として残るのは、アメリカのM2の増加に対して日本のM2の増加が不十分であるのに、為替レートが変わっていないという点である。この原因は
- 日本円の方が信用度が低く、その分値上がりしにくい
- 流通量に価格が反映されるのには時間がかかる
などが考えられるがどうなのだろうか?学習を続けたい。