『経済ってそういうことだったのか会議』 第2章 経済のあやしい主役 ~株の話~

そもそも株とは何か?これを考えるには、まず株がいつ、どのようにして生まれたかを見てみるのが良いだろう。

 

世界最古の株式会社

世界最古の株式会社は、東インド会社である。東インド会社は主に貿易と植民地経営をしていた。東インド会社はイギリスのもの(1600年設立)とオランダのもの(1602年設立)がある。それぞれがお金を出し合い、東インド諸島や東南アジアなどに香辛料などを買い付けに行く資金とする。それを売って得た利益を、出した金額に応じて分け合う。これが株式会社のはじまりである。

竹中:企業を始めようと思ったら、まとまった大きなお金がいりますよね。そのお金は、その企業の基本的な所有者、つまり株主が出すか、他人から借りるか、この二つしかないわけです。このお金を調達する二種類の方法の中でも特に重要な部分が、株主が出す部分です。初期の会社というのはとても単純で、株主が一度出資して一つのプロジェクトをやり遂げたらそれで終わり、解散なんです。

事業が軌道に乗ってくると、毎回のプロジェクトにお金をいちいち出したり返したりするのは面倒になってくる。そこで、利益を分配せずにそのまま次のプロジェクトに向かう、というような継続的な組織になっていく。ただ、そうやって出資金を拘束してしまうと問題も出てくる。出資金を何らかの理由で返してほしい、となった場合だ。

竹中:出資金を返したら、そのために会社がつぶれてしまうと大変ですよね。そうならないように、お金を出資した人たちが「自分の権利」というものを、たとえば十とか二十に割って、それを紙切れの証文にして、その権利を売買するようになったわけです。それが株なんですよ。

このように細かく分割することで、大金持ちでなくとも投資に参加できるようになる。投資先も分散させることができる上、会社がもし倒産しても失うのは出資金のみであり、責任は有限である。このように、会社やその利益を株主で共有することから、株のことを投資家の目線から見て、「シェア」という。一方、会社から見た株のことは「ストック」という。貸借対照表における純資産に割り振られることに対応しているようだ。両者は目線が異なるだけで、同じものを指す。

OED(Oxford English Dictionary)では次のように説明されている。

  • share:one of the equal parts into which a company's capital is divided, entitling the holder to a proportion of the profits (会社の資本金を等分割したものの一単位であり、その所有者は利益の一部を受け取る権利を持つ)
  • stock:the capital raised by a business or corporation through the issue and subscription of shares (株式の発行や引き受けを通じて、事業や法人によって集められた資本)

確かにshareは株主目線であり、stockは企業目線のようだ。

このように株によって資金集めをしている会社を株式会社という。資金集めを株主に頼ることなく、自前で行っている会社もある。

 

株価を動かしているものは何?

佐藤:株価が経済を反映するということはわかるんですが、そもそもどのように株価は上がったり下がったりするんですか?

竹中:株主は、会社が上げた利益の配当をもらうんです。これは私が投資したことに対するいわゆるフルーツ(果実)ですね。たとえば100円の元手があって100円投資したことに対して5円戻ってきたとすると、利回りは5%です。さて、私が同じ100円を株じゃなくて銀行に預ける、あるいは社債とか別の運用の仕方を考えたとします。そのときの広い意味での金利の利回りが3%だったとしましょう。株がもし預金や社債と同じように安全だとしたら、私は株を買います。誰でもそうですよね。じゃあ、みんなが株をどんどん買っていったらどうなるか。株の値段が高くなります。(中略)株価がいままでの倍の200円になっても配当が5円のままなら、利回りは2.5%になります。そうなると、金利の方が相対的に高くなるから今度は株を売って銀行に預けますね。すると、株が安くなる。どこまで安くなるかというと、金利と株価(配当の利回り)が均衡するところまでということになるんですね。

もちろん株式の方がリスクが大きいため、実際には均衡しない。金利は何によって決まるのかと言えば、お金の需要と供給である。すなわち、お金の量を調整することで操作することができる。それが中央銀行の役目である。中央銀行が何もしない時、株価が下がれば金利は上がる。金利を下げることで、株価が上がると考えられる。第一章で取り上げたお金の供給量はこのような形で株価に関わってくる。

 

つい一週間ほど前に、アメリカの長期金利が3%に復帰したニュースがあった。

長期金利:世界で上昇 米が3%台、懸念される負の影響 - 毎日新聞

この記事では金利の上昇に伴う株価の下落が懸念されている。一方日本はゼロ金利政策を続けており、それで株価の下支えをしている状況である。そのため、上述した株式-通貨の利回りの差ではなくドル-円の金利の差によって円が売られ、ドルが買われるという構図になる。すなわち、円安ドル高が進むと考えられる。

 

経済議論のキーワード「期待」

ある企業を所有しようと思ったら、株をすべて買い占めてしまえばよい。そうなると株価の合計がその企業の価値(値段)ということになる。その企業の価値は何によって決まるかと言えば、理論上は「期待と金利」である。

具体的には次のように考える。

まず、その企業が未来にどれだけの利益を上げられるか計算する(期待する)。

ただ、今の10,000円と来年の10,000円は価値が違う。今の金利が1%だとすると、今の10,000円は来年には10,100円になっているはずである。逆に言えば、来年の10,000円は今の価値で言えば9,901円(=10,000/1.01)ということになる。これを割り引くという。再来年の10,000円はさらにこれを金利で割ればよい。

このようにして、割り引かれた未来の利益を足し合わせることで企業の価値が算定される。割り引きの話は投資を語る上で欠かせない概念なので忘れないでおきたい。

 

 

会社は一体誰のもの? 経営と所有の分離

会社の所有者(オーナー)は株主であるが、オーナーが経営をするとは限らない。自分で経営をせずにプロの経営者を雇ってマネジメントしてもらうことがよくある。しかしながら、オーナーは経営者に仕事を振って終わり、というのでは経営者に何をされるかわかったものではない。オーナーには経営者が適切に経営しているかをチェックする義務があるだろう。これがコーポレートガバナンスという考え方であり、株主総会はそのチェックを行う集まりである。

ただ、日本の場合は企業の株主が別の企業であることが少なくない。これではチェック機能が働かない。

佐藤:会社は誰のものかっていう話でいうと、例えば僕が電通の社員だったとき、電通って自分の会社だと思うわけですよね。社内には「電通マン」なんていう言葉があって、みんなも自分で「電通マン」だと思ってる。(中略)まさに「わが社」っていう意識なんですよ。僕、四十歳のとき、退職するわけですよね。ところが電通マンの証である社章のバッジを返してしまったら、次の日から会社とは全然関係ないんです。(中略)ただそこに箱があって、そこで一生懸命働いてた一人だったんですよね。

オーナーが明確でないからこそ皆が「わが社」という意識で働けるのだ、という説もあるらしい。また、コーポレートガバナンスが行き渡らなかったがために、会社は配当を出さずに済み、内部留保を設備投資に回すことができたと竹中は言う。このために日本は短期間で急成長することができたらしい。

佐藤のような意識を持つ人は今でも多いと思う。この意識を持つことは決して悪いことではないのだろうが、株式会社の所有者はあくまでも株主であることは頭に留めておきたい。

また、配当の多寡については比較が難しいが、今期に限って言えば、たとえば

と、(相手が米国有数の高配当株であるというのはさておき)日本の会社は利回りが低いというのは今でも変わりないように思える。ただ、ここ数年日本はゼロ金利政策を続けており、配当利回りに対する要求が低いということも考えるべきだろう。すなわち、企業の配当性向というよりも金利の問題ではないか、ということだ。

こんなサイトがあった。

日米実質金利差の見通し | 総会おじさんの株式投資ブログ

ところどころ金利差がマイナスになっている(利回りが円>ドル)期間もあるが、おおむね米ドルの方が利回りは大きいように思える。

配当性向に対する金利の影響を考慮するには、金利差がマイナスになっている期間(2006・2008・2012年)で配当がどうなっていたのかを調べる必要がある。また、箇条書きにした業種以外のものについても調べる必要があるだろう。

 

調査が不十分な上、まだ2章は終わっていないのだが、長くなったので記事を改める。