『自己評価の心理学』 第11章 自己評価をよくするにはどうしたらよいか

第10章で見たような、短期的な方法ではなく、自己評価を全面的に改善しなければならないこともあるだろう。それはどうやって行えばよいのだろうか?

自己評価を変えるのは可能である
自己評価は時間や出来事をきっかけに変わっていく。
自己評価が改善される際には、何かしらのきっかけとなる出来事があることが多い。それは優しい恋人との出会いかもしれないし、適切な助言をくれる友人かもしれない。仕事で成果を出したときかもしれないし、趣味が評価されたときかもしれない。
しかしながら、自己評価を改善するには「出来事」だけでは不十分である。自己評価の高低にかかわらず、出来事を起こるチャンスを逃してしまう人がいる。

たとえば、恋愛についていえば、あまりにプライドが高いせいで近寄ってくる男性を次々に断った結果、いつのまにか40歳近くになってほとんど男性から声をかけられなくなった女性……。あるいは、あまりにも自己抑制が強い結果、好きな女性に声をかけることができず、結局はほかの男に取られてしまった男性……。このようにチャンスを逃してしまうのは、行動を避ける気持ちがどこかで働いているからだ。行動をしなければ何も起こらない。そして、何も起こらなければ自己評価は改善されようがないのである。
したがって、自己評価を改善するにはまずは行動を起こすことが必要である。行動を起こして、その結果をうまく受け止めてやる―これが大切なのだ。

行動すればよいと分かってはいても、そうかと行動できれば悩みはない。自己評価の低い人はそれができないからこそ悩んでいるのだ。
まず行動できるように根本から自己評価を改善する必要がある。とはいえ、何をすればよいのか分からないだろう。具体的な例を以下にまとめる。

自己評価を改善する方法―9つの鍵
この本では、自己評価を改善するための方針として、「自分自身との関係」、「行動との関係」、「ほかの人との関係」の3つの分野を挙げている。

3つの分野 9つの鍵
自分自身との関係 ①自分を知る
②自分を受け入れる
③自分に対して正直になる
行動との関係 ④行動する
⑤自分の心のなかの批判を黙らせる
⑥失敗を受け入れる
ほかの人との関係 ⑦自己主張をする
⑧ほかの人の気持ちや立場を理解する
⑨社会的なサポートを受ける

いきなり9つ全てに立ち向かうのは困難である。まずは目標を1つに絞り、それに集中するとよいらしい。

第1の鍵―自分を知る
自分を知るための道具として、「ジョハリの窓」というものがある。以下の表でまとめられる。

自分が知っている 自分が知らない
ほかの人が知っている 解放領域 盲点領域
ほかの人が知らない 隠蔽領域 未知領域

自己評価の改善のためには、この中の「解放領域」を広げていくことがよいとされる。具体的には

  • 隠蔽領域→解放領域 自己開示をする。たとえ相手と自分との意見が異なっており、それを知って相手が気を悪くする可能性があったとしても、その意見を伝えてみる。
  • 盲点領域→解放領域 周りの人に意見を求め、自分についてどう思っているか聞く。耳が痛い指摘をもらっても感謝すること。
  • 未知領域→解放領域 あまり経験したことのない状況に身を置いてみたり、新しいことに挑戦してみる。

が考えられる。特に隠蔽領域を解放領域にするには、自分の意見や気持ちをはっきりさせなければならないため、その過程で自分の考えていることや感じていることを現実と突き合わせる能力が身につく。相手から反論されれば、過ちにも気づきやすい。もちろん、意見を出さずに黙っていた方がよいこともあるのだが。

例が挙げられている。

  • 好きなことや嫌いなことをはっきりと言えるか?ほかの人にそれをどう伝えるか?ほかの人が違う意見を持っていた場合、それを受け入れられるか?
  • 普通の人より知っていると思う分野はあるか?それについて人に話すときにはどんな話し方をするか?逆に、知らない分野について質問する勇気があるか?
  • 自分の価値を貶めることなく(あまり自虐的にならずに)、失敗の経験を話すことができるか?逆に、自慢しているという印象を与えずに、成功の経験を話すことができるか?
  • 自分の長所と短所をいうことができるか?威張ったり卑屈にならずに、その長所や短所についてまわりの人に説明できるか?

人に言うのが難しければ、ノートなどに書いてみるとよいだろう。

第2の鍵―自分を受け入れる
インド系イギリス人の作家V・S・ネイポールは、あるインタビューに答えて、こう語ったという。

私にはよくわかっています。恥ずかしいと思っているということを認めた瞬間、羞恥心というものは消えてしまうものなんです。

なにかコンプレックスがあり、それが自己評価を傷つけている場合、どうにかしてその悩みを自分の口から話してもらうことがセラピストの仕事となるらしい。 これは解法領域を広げる作業でもある。

羞恥心と仲が良いのは沈黙と孤独である。誰にも言わず、ひとりで悩んでいるかぎり、恥ずかしいという思いから抜けだすことはできない。ということからすれば、自分が恥ずかしいと思っているということを誰かに話す決心がついたとしたら、あなたは貴重な一歩を踏み出したことになる。

第3の鍵―自分に対して正直になる
第10章の防衛機制でもっとも多く用いられるのは「否認」らしい。
否認には「自分の感情を認めない」ということと、「状況を変えたいという気持ちを認めない(忍従)」がある。具体的には次のように考えることである。

自分の否定的な感情を認めない 状況を変えたいという気持ちを認めない
「私は起こっていない」 「人生なんてこんなものだ」
「私はがっかりしていない」 「いつものことだ」
「私は不安を感じていない」 「どうせ、こうなると決まっていたのだ」

本当はそう思いたくないが、このように諦めてはいないか?自分の本来の感情を認めることによって、体面を失うと思うかもしれないがそんなことはおそらくない。まず認めてみるという「行動」をしてみよう。

第4の鍵―行動する
自己評価を改善するためには行動することが不可欠である。それによって具体的に何かが変われば、そこから全てが始まるのだ。頭の中で計画を立てただけではほとんど改善されない。あるいは改善されたとしても、長続きしない。その計画がほんのわずかでも実行に移された時、輝かしい未来の扉が開かれるのである。電話をかける、申し込みのハガキを書く、あるいは一歩外に出てみる。自己評価を改善しようと決心したら、それは具体的な行動で示される必要がある。

第5の鍵―自分の心の中の批判を黙らせる
私たちは何かをする前や、した後に自分の心の中の批判に耳を傾けてしまうことがある。この傾向が特に強くなると、何もできなくなってしまう。この批判にはいくつか種類があり、行動の前後に自己評価に与える悪影響などの点からまとめると、次の表のようになるという。

自分の心の中の批判 良好な自己評価を持つことに対する悪影響
行動前 「そんなことをしても無駄だ」
「なんのためになる?」
「きっとうまくいかないだろう」
行動を起こさない
挑戦するのを取りやめる
不安、あるいは無用な完璧主義
行動後 「これでは駄目だ」
「何の役にも立たなかった」
「これでは十分ではない」
自分の価値を引き下げる
二度と挑戦しない
自分のしたことに満足できない

これらの自分への批判に対抗する上でまず重要なのは、そういったものが存在することに気づくことである。そうすれば、物事がうまくいかない時にも、それは能力の問題ではなく自己評価の問題ではないかと考えることができる。もしそういった可能性があると思えば、その批判に対して次の四つの質問をしてみると良い。

  • そう考えるのは現実的だろうか?周りの人もそう考えているか?
  • そう考えることによって楽しい気分になるだろうか?
  • そう考えることによって現在の状況に立ち向かうことができるだろうか?
  • そう考えることによってこの次の機会にはもっと良くなると期待できるだろうか?できないなら、ほかの考え方はないか?

第6の鍵―失敗を受け入れる
失敗するのが好きな人はいない。だが、自己評価を改善するためには行動を起こさなければならず、そうなったら必然的に失敗するリスクを犯すことになる。ではそのリスクをどうやって引き受けるか? 失敗を避けるよりは失敗を大げさに考えない習慣を身につけたほうが現実的である。それを確かめるには実際に失敗してみるのが一番である。 失敗と上手に付き合う上で意識すると良いのは次の点である。

  • 物事を成功か失敗かの二元論で見ない
  • 失敗は誰にでもある。今までにもあったし、これからもあるだろうということをいつも頭に入れておく
  • 失敗から教訓を引き出す

積極的に行動できない人は大抵の場合、物事には成功か失敗かの二つの結果しかないと思い込んで、その中間があることを想像できない。
また、こう言った人々は比較的頭が良いため、成功はしないだろうという理由がはっきりと見通せる。もしそうなら失敗しか残っていないと考え、行動するのを止めてしまうのだ。
物事は白か黒かで決められず、その中間があるということも知っておく必要がある。
行動の結果、予想もしていなかったようなものが得られたり、失敗に終わったとしても次へと向かう意欲が湧いてきたりといったことが起きたという記憶はないだろうか?

また、私たちの社会は失敗というものをタブーのように扱う傾向にある。例えば誰かが自分の成功について語るとき、その前に経験したはずの失敗についてはほとんど触れないことが多い。それを見ると、人々は他の人は失敗をしないと考えてしまう(私もそうだった)。だが、失敗しない人間はいない。

最後に、言い古されていることではあるが、失敗は成功への糧となる。何が失敗の原因となったのか考えることで、成功へと近づく。この時大事なのは、失敗の原因を自分自身ではなく自分のやり方に求めることである。「自分が悪いから、ダメだから」失敗したと考えては、永遠に成功できないことになってしまう。自分が他人になることはできないからだ。「自分のやり方が悪かったから」失敗したと考えることで、修正点が見えてくる。

失敗を破滅的にではなく、現実的に受け入れる見方は例えば以下のようなものである。

  • 失敗はただの不愉快な出来事(もうおしまい、ではない)
  • 失敗はひとつのステップ(永遠にうまくいかないまま、ということはない)
  • たいていの失敗は取り返しがつく
  • あえて失敗を好むようなことはしない(「こんなものだから仕方がない」ことはない)
  • 失敗をみっともないとは思わない
  • 今回は失敗しても、最後に成功すれば問題ない(まわりの人からの信頼を全て失う、ということはない)
  • 失敗した原因は自分にはなく、自分のやり方にある

第7の鍵―自己主張をする
自己主張とは、相手の気持ちは考えを尊重しながらも自分の意見や望みが相手に伝えることである。より具体的に言えば、攻撃的にならずにノーと言ったり、卑屈にならずに物事を頼んだり、あるいは批判に対して冷静に答える事などである。これも自己開示の一つと言えるだろう。
きちんとした自己主張ができるようになると、自分の希望を通したり人から尊重してもらえるばかりではなく、気分が安定して自己評価が高まるということが明らかにされている。自己主張ができるようになっているということは、他の人に対して自分の権利を主張することができるくらい自分を大切にできるということを示している。
また、自分の権利を主張することができるというのは相手の迷惑になったり相手の機嫌を損じたりするリスクが冒せるということでもある。これは自己評価が高くなければできないことである。

第8の鍵ー他の人の気持ちや立場を理解する
相手に共感することができるようになると、それは自己評価を高める強力な推進力となる。これによって相手の近くにいると感じ、また相手から高く評価されているという実感を持つことができるからだ。 そのためには相手の話を聞くことが不可欠である。 それだけではなく、お互いに言いたいことが言えるような関係になれるということも大きい。相手の気持ちを聞いてその気持ちは立場を理解するように努めれば、相手のほうもこちらの話を聞いて理解しようとしてくれるからである。
ただし、自己評価が低いと自分の利益を犠牲にしても相手の気持ちは立場を理解しようと一生懸命になってしまうことがある。相手の意見に同意する必要はない。理解するだけでよい。
具体的には、相手の意見に対して自分がどう思おうが「そうなんだ、ふーん」で十分である。ここでいきなり「違う、~の方がよい」とか、思ってもないのに「私もそう思う」などというと自己評価の改善にはつながらない。これらの反応は良かれと思ってすることが多いのだが、相手に共感しているとはいえない。反論は相手の話を聞くことよりも自分の意見を述べることを優先しているし(もっと相手の話を聞いてから始めても遅くはない)、思ってもいないのに思っているというのは、同意ではあっても理解ではない。相手の好きなものや支持するものを自分も好きになったり支持する必要はない。その事実をそのまま受け入れよう、ということだ。
あなたにも何か好きなものや支持するものがあるだろう。それが何人にも制限されてはならないように、あなたも他人が思っていることを安易に否定したり、受け入れる必要はない。

第9の鍵―社会的なサポートを受ける
「社会的なサポートを受ける」というのは、まわりの人との関係を良くし、その指示や援助を受けるということである。こういった関係を持っているということは、自己評価にとっては力強い味方になる。心がけるとよいのは

  • サポートを求めることをためらわない
  • 定期的に関係を温めておく
  • 色々なサポートが受けられるよう様々なレベルの関係を作っておく

の3点である。

自分を変えるための戦略

不平や不満を目標に変える
古典的な方法ではあるが、それだけ有効な方法である。「自己評価を改善したい」というのも十分な不満である。ただ、そのままでは漠然としすぎており、行動はおろか解決策を考えることすら難しい。

大事なのは行動である。行動できないという状態に陥るのを防ぐためには大きな目標を、今日にでもできる達成の容易な目標に細かくわける必要がある。

  • 自分の意志でできること 
  • 定期的にできること
  • 現実的なこと
  • 具体的なこと
  • 自分の好きなこと

これらの点を意識して、今日からできる行動をしてみよう。

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