『経済ってそういうことだったのか会議』 第3章 税金の話
民主主義は税金から始まった?
民主主義は税金の問題から始まっているという。かつては王様の内ポケットと国家財政の区別はなく、無駄遣いされがちだった。すると財政赤字となり、税金を上げる。当然国民の生活は苦しくなり、国が亡ぶ。
そこで、議会によってお金の使い道をチェックしようという動きが出てくる。それが租税民主主義である。
wikipediaには「租税民主主義」は載っておらず、「租税法律主義」や「財政民主主義」として載っている。租税法律主義は、国民が定めた法律の根拠がなければ租税を徴収されることはないという考え方であり、財政民主主義は国家が財政を動かす際には国民の代表である議会の承認が必要であるとするという考え方である。租税民主主義はこの2つの考え方をひっくるめたものと考えられる。
租税民主主義が確立したのはイギリスであり、マグナ・カルタによって定められた。ちなみにマグナ(Magna)はラテン語でGreatに通じ、カルタ(Carta)もラテン語でCharter「憲章」に通じる。直訳すれば「自由の大憲章」である。
マグナ・カルタでは君主主義であることは変わらないが、税金に関しては国王の決定だけでは徴収できないように制限している。
理想的な税のあり方とは?
民主主義が生まれた理由の一つが税金のことを決めるためであるならば、税金がどのように定められているかはその共同体のあり方を示しているといえる。
佐藤は税制に不満を持っている。
僕自身のことを言うと、今の税に対しては、正直なところ不満だらけなんです。たとえば働くのが嫌になる税金のシステムというのは、すごくつまらないですよね。
それに対して竹中は、人頭税が理想の税だと説く。なぜか。
政府が市場に対してできることというのは、行政指導や補助金などがあるが、どれも恣意的であり不公平でもある。残された最後の手段が税金だという。
税金はなぜ正当化されるのか。その理由の一つは税金による治安の維持だという。夜警国家や、自由主義国家論という考え方では、国家の機能を最低限に抑えるべきだとし、その最低限というのは治安の維持や国防だとした。 当然だが、国家が機能を持つには税金がなければならない。
一方、重税に苦しむ国民や佐藤が言うように、悪い影響を与える税もある。その善悪はどのように判断されるのか。竹中は「租税原則」として次の3つを挙げている。
- 簡素であること 徴税の条件や額などが分かりやすいこと。
- 公平であること 誰かが極端に多く徴税されるという事態を避けること
- 中立であること 税が社会に与える影響を一部の人間に偏らせないこと
これは財務省のホームページでも紹介されている。 www.mof.go.jp
これだけでは曖昧過ぎる。特に公平と中立は定義が難しいだろう。
公平には垂直的な公平と水平的な公平の2つがあるという。
水平的な公平とは、受ける益が同じであるならば払う額も同じであるという考え方である。 垂直的な公平とは、税金を払う能力がある人は、能力がない人よりも多く払うべきだという考え方である。ただ、どの程度差をつけるべきかという議論には終わりがない。
人頭税とは、水平的な公平を目指したものであると言える。確かに公平ではあるだろうが、結果論というか、既に多くを持つものの論理だという気もする。 自分の能力が高いから、自分が努力したからそれだけの収入を得たのだ、それを国に取られるのは不当であるという意識や、払えない人は努力していないため(自己責任)であり、それをわざわざ補う必要はないという意識が見える。 実際には、成功要因には運の影響が強いというのは広く言われていることではないのか。
近年では、世代間の公平が重要視されているらしい。
消費税の是非
佐藤は消費税に賛成だという。
僕自身の感想としては、消費税が日本に導入されたときはこれで不公平税制が少しは緩和されると思って嬉しかったんだすけど……。(中略)単純に贅沢した人からお金をとればいいじゃないかという意識があるんですよ。おいしいものを食べたとか、お酒を飲んだとか、娯楽をしたとか、別荘を買ったとか、そういう余力のある人には余分なお金があるわけですから、お金とれるんじゃないかというのがあるんです、自分には。
誰からいつ税を取るかは長く議論されてきた。負担の形には応能負担と応益負担の2つがある。使うかどうかに関わらず支払い能力に応じて税を取るのが応能負担であり、便益を受けた人から税を取るのが応益負担である。所得税は応能負担であり、消費税は応益負担である。 水平的な公平は応益負担、垂直的な公平は応能負担ともいえる。
どちらが理想的かいうと、長い期間で考えた場合、稼いだ額はいずれその子孫によって使われると考えられるため結局取られる額は法律が変わらない限り同じであり、いつ取られるかが異なるだけである。
しかしながら、所得を把握するのは国家にとって難しい。一方消費を把握するのは簡単である。GDPは消費から計算されるという話だった。消費税が選択されるのはそのような意識があるという。
今はこうは言えないと思う。佐藤は贅沢に税をかければよいといっているが、消費税は商品に関係なくかかるものであるため、贅沢をしていない(できない)人にも課税される。 私は学生なのでまとまった所得はない。そのため贅沢どころではないが、昼食のパンにもしっかり税を取られる。
所得税
『フェアプレーの経済学』という本が紹介されている。この本では、所得の再分配が働く気をなくさせるという議論がされているらしい。 現在の日本の所得税は以下のとおりである。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
この本が書かれた1998年当時は65%が課税されていたらしく、今では45%と少なくなっている。 ただ、これはwikipediaのリストとは一致しない。wikipediaによれば、98年度では最大税率が3000万円越えは50%であり、65%を超えていたのは1986年までである。 財務省のホームページを見てみると、65%というのは所得税単体ではなく、個人住民税との合算であるということが分かった。これらを合わせたものを広義の所得税というらしい。
累進課税を導入しても高所得者の労働供給が抑制されないことが実証により示されている(高い所得税を課された場合に労働供給をしなくなりやすいのはむしろ低所得者である)。 という主張もある。これは八田達夫の教科書が出典となっている。前々から読もうと思っていたので次に読んでみる。
竹中:今の日本で言うと、人口の所得上位6%の人が、税金の40%を払っているんです。(中略)サラリーマンの約30%は、所得税を一円も払っていません。課税の最低限が非常に高いからです。
このあたりは本当なのか疑わしい。具体的な根拠が挙げられていないためなんとも言えないが、所得上位6%が一体どれだけの所得を持っていたのかを明らかにしなければこれが不当かどうかを議論できないだろう。 また、ここでは税金として一般化しており、所得税だけの話ではない。贅沢していれば払う税金も増えるはずである。
課税の形
先ほど挙げた3つの租税原則に加えて、考えるべきは徴税コストである。源泉徴収はそのコストを抑えるために採用されているといえる。アメリカやイギリスでも採用されている。
源泉徴収では給料をもらった段階ですべてが終わっているため、納税者の納税意識が高まらないらしい。また、年末調整も企業がやるとなれば、さらに意識が低くなるという。確かに年末調整はアメリカやイギリスではされていない。
竹中:サラリーマンというのは、基礎控除と言って、みなしの経費がかなり手厚く認められているんです。その結果が、課税最低所得の491万円(98年度)です。
先ほどの、サラリーマンの30%が所得税を払っていないというのはこれが根拠なのだろう。30%が控除によって課税対象から外れていたのだ。
現在では夫婦子2人(高校生・大学生)の給与所得者の場合、課税最低所得は345.5万円である。これは夫婦のいずれかが扶養に入っている場合である。 www.mof.go.jp
現在ではどうなのかを調べるのは難しい。少なくとも、
1000万世帯を超えなお増加中…共働き世帯の現状をグラフ化してみる(最新) - ガベージニュース
出生数・出生率の推移 - 少子化対策 - 内閣府
から、課税対象となる世帯は増えていることが推測される。また、最低所得も下がっている。狙い通り、「公平な」課税になったというわけだ。 この本では課税最低所得が欧米諸国と比べて低いといわれている。比較は一概にできないと思うのだが、その根拠はなんだろうか。
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