『経済ってそういうことだったのか会議』 第5章 通貨

自国通貨を持つというのはどういうことなのか?

この本が作られた当時はユーロが誕生するかしないかというタイミングだった(現金通貨としてのユーロが誕生したのは2002年)。佐藤の疑問は、なぜ欧州はユーロが必要だと判断したのかだった。

すなわち、自国通貨を持つよりもそれを放棄し、他国と統一した方が良いと欧州諸国が判断した理由である。

これを考えるには、自国通貨を持つことのメリットとデメリットを理解する必要がある。

竹中によれば、メリットとデメリットは次のようにまとめられるという。

メリット デメリット
流通する通貨の量を調整できる(通貨主権を持てる) 交換手数料がかかる
為替リスクがある

統一された通貨を持つことのメリットとデメリットは、そのまま自国通貨を持つことのデメリットとメリットに対応する。

EUの中で最もGDPが大きい国はドイツである。当然ユーロもドイツを中心とした体制になっている。

ユーロの調整を担う欧州中央銀行(ECB)はドイツのフランクフルトにある。ECBの目的は通貨価値の安定である。

すなわち、ユーロという制度はドイツの意向に沿ったものであり、フランスやイタリアをはじめとする欧米諸国は妥協してこの制度を受け入れたということがうかがえる。 そこまでする理由とはなんだったのか?それを考えるには、ユーロ誕生の先駆けともいえるEUがどのように誕生したのかを確認する必要があるだろう。

EUやユーロ誕生のきっかけとは?

竹中は、EUやユーロ誕生の目的は

  • 欧州を一つのブロックとみなし、経済を安定させることで戦争を防ぐ
  • ドルに対抗する通貨を作る

ためだと述べている。

竹中:もともとは戦後間もないころにできたヨーロッパの鉄鋼関税同盟から始まりました。ヨーロッパの石炭鉄鋼共同体、つまりEEC(ヨーロッパ経済共同体)のもとになったやつですね。基本的にはヨーロッパで一つのユニットを作ることによって、二度と戦争を起こしたくないという、非常に強い歴史上の認識があったのです。だから、チャーチルのころからこういう試みが始まりました。もっとも、戦争を起こさないというその目的だけで通貨統合しているとも思えません。やはり、ドルに対抗するためにヨーロッパの復権をかけてやっているということでしょう。 それともう一つ理由があるとすれば、非常にしたたかに実利を志向してるということだと思います。つまり、こういう統一の基準がないと、ヨーロッパという古い社会は自らを変えることができない。自らをリスクの中に置くことによって、初めて自分たちの社会が変われるということじゃないでしょうか。

ここにチャーチルが出てくる。チャーチルについては映画をきっかけに何本か記事を書いた。もっとも、記事にしたのは戦時中のチャーチルで、戦後のチャーチルについては記事にできていない。

また、世界中で還流する通貨を持つことが国際的に影響力を持つ上でいかに重要であるかについても記事を書いた。

armik.hatenablog.jp

アメリカ合衆国が世界最大の貿易赤字国であり、財政赤字国であり、対外債務国であるにもかかわらず経済破綻しないのは、ドルが還流しているためである。

他国にすれば外貨建てで取引するところをドル建てでできてしまう。他国はドルを貿易や自国通貨との交換によって入手する必要があるが、アメリカはドルを発行すればよい。それによってアメリカは大量の輸入が可能になった。

EUもユーロ建ての取引を増やすことで、その存在感を増そうとしたのである。

しかしながら、リーマンショックに次ぐギリシャ・ショックによってその脆さが露になった。

ユーロの価値はそれまでの通貨の平均値として決まる。ドイツやフランスなどの国際的に競争力を持つ国は、それまでのマルクやフランよりも安くなるため、競争力が増す。その一方で、リーマンショックからは自力で立ち直れないスペイン、ポルトガルギリシャ、イタリアなどは債務を返済しようにも通貨主権を有していないため、通貨の発行で解決するという手段を取れなかった。

ギリシャの信用が失われることはユーロ全体の信用が失われるということを意味する。ギリシャ・ショックはこうして起こったのである。ギリシャを皮切りに、経済危機が欧州全体へと波及した。これはユーロに統合したことで生じた問題だと言える。

2010年欧州ソブリン危機 - Wikipedia

日本円の立場

ユーロはドルに代わる基軸通貨を目指して作られた。ユーロが誕生してから15年以上が経過した。その間に日本円はどのように変化したのだろうか。

世界の貨幣の流通量の総量はドル換算で約90兆ドルであり、そのうちドルは約13兆ドル、ユーロも約13兆ドル(11兆ユーロ)、円は約9.1兆ドル(約1000兆円)であり、元は約17兆ドルある(!)。 貨幣の流通量はそれぞれの通貨のM2を見ている。

FRB:The Fed - Money Stock and Debt Measures - H.6 Release - February 14, 2019

ECB:http://www.ecb.europa.eu/stats/money_credit_banking/monetary_aggregates/html/index.en.html

日銀:マネーストック : 日本銀行 Bank of Japan

元:2018年12月中國M2貨幣和準貨幣供應量期末值:1826744.22億人民幣 | Stock-ai,自由的全球總經百科

総量:Infographic: All of the World's Money and Markets in One Visualization

ドルは全体の14%ほどを占める。ユーロも流通量だけを見ればドルに引けを取らない。円もそれなりにある。元は眉唾だが、円より多いのは確かなようだ。

竹中は、円建てでアジア各国に貸し出すことを主張している。ドルが今の地位を築いたのはドルを貸し付けたためだというのだ。

一応日本は25年連続で対外純債権国となっているが、影響力がその25年で大きくなったのかと言われると疑問が残る。現段階では判断がつかない。

チャーチルの記事 armik.hatenablog.jp