「ビジネスで差がつく計算力の鍛え方」の補足説明を試みる その1

先日、こんな記事を読んだ。

dutoit6.com

普通は紙と鉛筆(もしくは電卓)を使うような四則演算でも、工夫することで暗算できる、という記事だ。

言われてみれば当たり前のことなのだが、あまり意識していなかったというものが多いので読んでみることを薦める。

この記事で紹介されていたのが「ビジネスで差がつく計算力の鍛え方」である。

この本も上で紹介した記事と同じく、筆算を使うような計算を暗算するための方法などが紹介されている。

本の内容に特に不満はないのだが、気になる点がいくつかあったため、この記事で本の内容を自分なりに補ってみる。

この本を読まなくても内容が分かるように書いたつもりだが、文字式を使った式変形をしているため数学が苦手な方が読む必要はない。

おみやげ暗算法

最初に紹介されるのが「おみやげ暗算法」である。これは2乗の計算にのみ適用できる。例えば

\[25 \times 25 \]

を計算しようと思ったら、一の位の5を足し引きして

\[ (25+5) \times (25-5) = 30 \times 20 = 600 \]

とし、最後に「おみやげ」として足し引きした5の2乗を足してやればよいというものである。

\[ 25 \times 25 = 600+5^{2}= 625 \]

他の例を挙げる。

\[ \begin{align} 68 \times 68 &= 76 \times 60 + 64 \\ &= 4560 + 64 \\ &= 4624 \end{align} \]

なぜこれでよいのかについては本では説明されていない。簡単なのでわざわざ言うべきものでもないのだが、これは中学で習う因数分解の公式

\[ a^{2} - b^{2} = (a+b)(a-b) \]

を使っているだけである。上の式の両辺に b^{2}を足せば

\[ a^{2} = (a+b)(a-b) + b^{2} \]

となる。 b^{2}が「おみやげ」となっていることがわかるだろう。

この公式は実数どころか複素数でも成立するため、かなり汎用性の高い方法である。もっとも2桁以外の使い道はなかなかないと思う。

3桁以上でも零が含まれていれば簡単になるが、そうでない限り2回以上この考え方を使う必要があるため、私の脳内メモリでは足りない。

十の位が同じで、一の位を足すと10になる場合

例えば次の計算である。

\[ 24 \times 26 \]

これは次のように計算するらしい。

  • 百の位: 2 \times (2+1) = 6 (十の位の一方に1を足してかけ合わせる)
  • 十、一の位: 4 \times 6 = 24 (一の位をそのままかけ合わせる)

よって624となる。

これも当たり前の話で、24×26

\[24\times 26 = 20\times 20 + 20 \times 4 + 6 \times 20 + 6\times 4 \]

であるため、整理して

\[ \begin{align} 24\times 26 &= 20\times 20 + (4+6) \times 20 + 6\times 4 \\ &= 30\times 20 + 6\times 4 \\ &= 600 + 24 \\ &= 624 \end{align} \]

とできるのだ。

一般化してみる。2桁の数はそれぞれ10a+b10c+dと書ける。ここでa,cは十の位を表しており、1~9の整数をとる。

b,dは一の位を表しており、0~9の整数をとる。

この2つの数の積は

\[ (10a+b)\times(10c+d) = 100ac + 10(ad+bc) + bd \]

と書ける。 「十の位が同じで、一の位を足すと10になる場合」とは、c=a, \, b+d = 10ということを表しているため

\[ \begin{align} 100ac + 10(ad+bc) + bd &= 100a\times a + 10(ad+ab) + bd \\ &= 100a^{2} + 10a(b+d) + bd \\ &= 100a^{2} + 100a + bd = 100a(a+1) + bd \end{align} \]

となる。a(a+1)が上の例の2\times 3に相当し、bdが24に相当する。bdは81以下なので(bとdは最大9である)、百の位に影響することはない。

「十の位の一方に1を足してかけ合わせる」のは覚えられない気がする。「十の位の2乗にさらに十の位を足す」でも同じ結果となる。

十の位をたすと10になり、一の位が同じ場合

この計算は次のように紹介されている。

  • 千、百の位:十の位同士をかけたものに一の位を足す
  • 十、一の位:一の位の2乗

これはさっきと逆に、a+c=10, \quad d=bという条件である。よって

\[ \begin{align} 100ac + 10(ad+bc) + bd &= 100ac + 10(ab+cb) + b\times b \\ &= 100ac + 10b(a+c) + b^{2} \\ &= 100ac + 100b + b^{2} \\ &= 100(ac+b) + b^{2} \end{align} \]

となる。千と百の位は十の位同士をかけて一の位を足したものになり、十と一の位は一の位の2乗になっている。一の位の2乗は81以下なので、百より上の位に影響しない。

例えば

\[ \begin{align} 18 \times 98 &= 100(1\times 9+8) + 8^{2} \\ &= 1700 +64 \\ &= 1764 \end{align} \]

である。

2桁×11の計算

この計算方法は次のように紹介されている。

  • 百の位:十の位
  • 十の位:十の位と一の位の和
  • 一の位:一の位

そもそも11をかけるということはその数を10倍したものにその数を足す、ということに等しい。複雑ではないため覚える必要はないかもしれないが、一応確認する。

この場合はc=d=1であるため \[100ac + 10(ad+bc) + bd = 100a + 10(a+b) + b \]

となる。これは(a+b)が10未満であれば、百の位がa、十の位が(a+b)、一の位がbとなることを意味している。例えば

\[25 \times 11 = 275 \]

(a+b)が10以上の場合、繰り上がるため百の位に1が加わり、十の位は(a+b)の一の位となる。例えば

\[29 \times 11 = 319 \]

となる。

繰り上がる場合については述べられていない(気づいていないはずがないのでおそらく意図的に伏せている)ため、少々不親切な気もする。

まとめ

文字式を使うことでなぜその方法が成立するかがわかりやすくなる上、その方法の限界も見えてくる。

「おみやげ暗算法」だけが10a+bというような表記をしなくともその妥当性を示せたことから、「おみやげ暗算法」は3桁以上の数にも使えるが、それ以外の計算方法は2桁の場合でなければ使うことができないことがわかる。例えば324 \times 526は「十の位が同じで、一の位を足すと10になる場合」だが、624にならないのは明らかである。

3桁以上の数もこの記事のような方法で表すことができる。3桁同士のかけ算にどのような条件を与えれば2桁の場合のような結果が得られるか試してみるのもおもしろい。

こういうテーマを中学生の自由研究にすればよかったと、今更ながら思った。