ゴルフの水切りショットに見る水切りの原理 ~その2~ 加わる力は何か?

前回の記事で、水切りにおいて水面が石に及ぼす力が水の慣性に起因する抵抗力であるらしいと述べた。参考にしている論文では、この結論にたどり着く前にいくつかの候補(弾性力・粘性応力・重力・浮力)について検討している。

ゴルフの水切りショットに見る水切りの原理 - armikのblog

ci.nii.ac.jp

この記事では、その一つ一つを詳しく見ていく。というのも、この分析に出てくる単語は流体の基本的な性質をカバーしており、良い復習になるためである。

ブリタニカ国際大百科事典を個人の解釈で要約し、必要があれば適宜wikiを参考にするという耳学問っぷりだが、まとめもしないで忘れるよりはましだろう。

 

弾性力

物体が変形した時、変形した状態から元の状態に戻ろうとする力である。ばねやゴムをイメージすると分かりやすい。

ばねやゴムという例からも分かるように、弾性力は固体を扱う際に問題となることが多い。

水切りにおける弾性力とは、水をトランポリンのように見なすということである。しかしながら、石が音速を超えて入射しない限りそのようには見なせない。ここでなぜ音速が出てくるのかというと、水の変形が伝わっていく速度は水中での音速に等しいからである。つまり、石が水の変形よりも早く水中に突っ込んでいく状態に対応する。

実際には、音速よりはるかに遅いスピードで水切りが生じる。

弾性力が水切りの原因とは考えにくい。

 

粘性応力

粘性とは、流体の内部摩擦(変形抵抗)のこと。

流体の運動が一様でない時に生じるせん断応力を粘性力という。

要するに、流体に力を加えて流れを起こす、もしくは変形させようとした際の抵抗力である。

単位面積当たりの粘性力(粘性応力)と速度こう配の比を粘性率(粘度)という。

粘性が大きいということは、おおざっぱに言えば流れにくい、変形しにくいということである。逆に言えば、同じ流れを生じさせるのにより大きな力が必要になるということである。

 

地上を走るよりも水中で走る方が疲れるのは、水の方が空気より重いからというのもちろんだが、水の粘性が空気より大きいことも原因として考えられる。

手足を動かすには空気や水を押しのける(変形させる)必要があるが、その時に水の方がより大きな力が必要になるのである。

実際wikiによると、水の方が空気より桁1つ粘性率は大きい。

粘度 - Wikipedia

論文によれば、石の並進速度と水の粘性率を用いてレイノルズ数を計算すると{10^5}ほどであるらしい。これは粘性応力が極めて小さいことを意味する。

ここでレイノルズ数は、粘性流体の流れにおける粘性力と慣性力の比を表す。

レイノルズ数が小さい場合、粘性が大きく寄与するため減衰効果が大きく、流れは安定する(いわゆる層流).

逆にレイノルズ数が小さい場合、流れは不安定になる(乱流)。

代表長さ:{L}、代表流速:{U}、密度:{\rho}、粘性率:{\mu}

とすると、レイノルズ数{Re}

{\displaystyle Re = \frac{LU\rho}{\mu}}

と書ける。

 

重力・浮力

レイノルズ数と似た無次元数として、フルード数がある。フルード数{Fr}

{\displaystyle Fr = \frac{U}{\sqrt{gL}}}

と表される。ここで{g}は重力加速度である。 

重力加速度が出てくるように、フルード数は石の慣性と重力の比で表される。

水切りを考える時、フルード数の値は10~100程度であり、石の運動には影響しないらしい。