『なぜこの人と話すと楽になるのか』・『なぜあなたの話はつまらないのか』 ~こちらが話す~
前回の記事では雑談としてのコミュニケーションとして、「聞く」ことに焦点を当てた。
雑談においては、基本的には聞いていればよい。しかし、時には自分の話を求められることもあるだろう。また、自分の話をすることで相手も話しやすくなるという側面がある。
質問一辺倒ではやはり限界があるため、数冊の本を参考に話し方の工夫をまとめる。
基本的な姿勢
前回の記事では、雑談に必要なのは(表向きの)相手への敬意だとも述べた。その考えに基づけば、相手に話をする上での基本的な姿勢は次のようになるという。
- 嘘は禁止(1を10にするのはよいが、0を1にしてはいけない)
- 答えにくい場合は黙秘権を行使する
- 自慢はご法度
- 自分の話から質問につなげられるようにする
嘘をつくのは賢明ではない。言葉で嘘をつけても、行動では嘘をつけないためだ。相手に言葉とは別のところ(表情、声のトーンなど)でバレる可能性が高い。 バレなければよいが、バレた場合、相手は自分が尊重されていると感じることはないだろう。
答えたくないことを聞かれた場合には、嘘をつくよりも黙る方が良い。相手も無理に聞いてきたりはしないだろう。拒絶はよくないと考えるかもしれないが、嘘をつくよりはマシである。相手を拒絶しているのではなく、質問に拒絶しているだけであるためだ。 逆に、こちらの質問に対して相手が答えにくそうな場合は、無理に聞き出すことはしない方が良い。
自慢も賢明とはいえない。自分がどう見られたいかを自分で規定しており、相手の判断の余地を与えていない(相手を尊重していない)ためである。また、自慢をはじめとするマウンティングを始めると、上には上がいるためにそのゲームの勝者は一人しか存在しないことになる。マウンティングの勝者が雑談の勝者となるわけで、勝者は確かに心地よいだろうが、敗者はそうとは限らない。時にあえてマウンティングに負けてくれる人がいるが(満足げの孫に対して、敵わないなあ、と笑っているおじいちゃんを思い浮かべてほしい)、それはコミュニケーション巧者と言える貴重な存在だろう。雑談としてのコミュニケーションはその場にいる全員が参加するゲームであり、全員が勝者となりうることを思い出せば、マウンティングは勝者を減らす行為であり、合理的とは言えない。
雑談というゲームにおいてはマウンティングに勝利する必要はないし、負けたとしてもそれはあなた自身を否定するものではない。
質問の方の記事では、主語を相手にするとよいと述べた。話す方でも同じで、自分(もしくは知人や家族)を主語にするとよい。モノを主語にしてしまうと相手に伝わりにくい上、それに相手が興味を持てない場合は話が続かない。 自分は~だけど、そっちはどう?と質問につなげられるとよい。
また、前回の記事では書かなかったのだが、雑談をする際には相手の目を見ることが極めて重要であるという。
相手の目を見るというのは慣れていないと難しい。特に難しいのは話をする時だと思う。話を聞く時にはあれこれ考えなくてすむので意識して目線を相手に合わせることができるのだが、話をする時にはあれこれ考えながら話すため、あらぬ方向を見がちである。
よくあるアドバイスとして、目ではなく鼻や首元を見る、相手ではなく相手の裏にある壁を見るなどがあるようだ。前回紹介した吉田尚記さんも、いまだに目を見るのは苦手らしい。
先日ツイッターで見たのは、VRが目線を合わせる練習になるという意見だった。
VRのアダルトビデオを見る機会があったけれど、VR空間でめちゃくちゃ人と目を合わせるハメになったので人と目を合わせる訓練によいとおもった
— kentz1 (@kentz1) 2018年6月7日
正直笑ったが、バカにできない。そもそも雑談する機会が乏しい人に関しては、VRが「コミュ障」改善の一手となるのかもしれない。
具体的な話題選び(第一段階)
基本的な姿勢については述べたので、より具体的な話題選びについて述べる。ただ質問に答えたり自己開示するだけでなく、より相手が面白がってくれそうな話を選ぶことで雑談がスムーズに進むという。
まず、聞き手に話を「面白い」と思わせるためのポイントは何か? それは、話手が話てがその話を「面白い」と感じているかどうかではなく、聞き手がその話に共感するかどうかで決まるのでした。 そして、聞き手が話のテーマを経験していれば、より強く共感してもらえるということも学びました。 例えば、あなたが無類の野球好きで、野球好きにはたまらないネタを話したとしても聞き手に野球の経験が全くなければ共感してもらえません。 だから面白い話をするためには、より多くの人が経験したことのある共感度の高いネタを選ばなければならない。
例として、次の3つが挙げられている。
- 情けない話(失敗談)
- 例え話
- コンプレックス
「きどにたちかけせし衣食住」の中で、これらに関するものを選ぶとよい。失敗談を話すと笑われると思って話せないことが多いだろうが、雑談における勝ち負けは沈黙や気まずさであることを思い出すとよい。
失敗談によって盛り上がれば、あなたは勝者となる。そこで軽蔑してくる人間とは付き合わなければ良いだけの話である。もちろん極端な失敗談や犯罪体験などはNGだが。
例え話は、分かりにくいものを分かりやすくするために使われる。例えば、統計を勉強している場合、「料理しているときに、どんな味か知りたかったら味見するでしょ?そのとき全部食べたりしないよね?全体を調べることなく、一部から全体がどんな感じか予想するのが統計だよ」などと説明するというものだ。もちろんこれは厳密ではないし、統計の中でも推定の話しかしていない。雑談においては厳密さは二の次である。
また、自分の失敗談と絡めて「その時の自分の動きはあまりにギクシャクしていて、ロボットみたいだったって友達に言われたんだけど、よく考えたらもうロボットの方が滑らかに動ける時代だよね」などと、動きの様子を例えることで理解しやすくなる。
コンプレックスも失敗談に近い。「コミュ障」っぷりをネタにすれば良いだろう。私の鉄板ネタは「そういえば、小学生の時に、『10年後に君はモテるようになるよ』と励まされてからもう10年が経った」である。 文字に起こすと下らないことこの上ないが、会話では案外ウケる。
テレビを見ると、コンプレックスに自虐を交えてトークをする人が多い。プロでも採用する戦略と言える。
これらのネタを瞬時に出すことは芸能人でも難しいらしい。そのためきっかけがあれば携帯にでもメモしておくとよい。
話の構成(第二段階)
話題選びをクリアしても話す順序がバラバラだったり適切でなかったりすれば面白い話にはならない。せっかくの面白さがうまく聞き手に伝わらない可能性もある。
話を面白く伝えるには正しい順序でフリオチを効かせて話すことが必要だという。フリオチには次のような役割がある。
- フリ 聞き手にこの話は次はこうなるだろうという想定をさせる
- オチ その想定を裏切る想定外を引き起こす
フリで聞き手に想定をさせて後で想定外を引き起こすには、フリとオチが逆の内容で矛盾していなければならない。 第一段階で聞き手が共感するネタを選び、そのネタをフリオチを聞かせて話す第二段階をクリアすることで聞き手にとって面白い話が成立します。
他愛のない話でも、フリオチを効かせることでメリハリが出る。例を挙げる。私はよくコンビニで買ったパンを電子レンジで温めて食べる。安いパンでも温かいだけでおいしくなる。
その日私は新発売だという「練乳ミルククリームの香ばしフランス」を購入し、いつものように電子レンジで温めた。その結果がこれである。
ただでさえ微妙なこの話を、最初に写真を見せて話したらどうだろうか。また、「温めたらクリームが溶けた話なんだけど」と始めたらどうしようもないだろう。
フリオチをするには、まずオチを決める必要がある。次に、それを予想させないフリを考える。
オチは第一段階で選んだ話題となる。そして、それにつながるフリを考える。フリはオチと矛盾していれば(逆接でつながれば)よい。
他にも、相手に注意を促す方法として次の二つが挙げられている。
- アバン法
- クエスチョン法
アバンとはアバンタイトルのことで、テレビ番組などでCM前に流れるCM後の簡単な予告のことである。 フリが長くなる場合、話の概要を先に述べることで注意をそれるのを防ぐ。
クエスチョン法とは、話の冒頭や途中に「~って知ってる?」などと質問を入れて相手の注意を促す方法である。情報番組やプレゼンなどではよく用いられる。
ここまでのフリオチ推しを見ると、なぜフリオチが面白いと感じるのかが気になってくる。
フリオチを使えばよいというものでもないだろう。面白いものが全てフリオチであるとも思えないし、フリオチの中にも優劣はあるだろう。
フリオチはよく笑いの説明で言われる「緊張と緩和」の一形態なのだろうが、そのあたりについては詳しくないので調べてみようと思う。
さらなる工夫
さらに面白く話をするために、本で紹介されていたテクニックについて簡単に触れる。
ただ、私のような「コミュ障」には難しいと感じた。以下の工夫を取り入れたがゆえに、話をするのに精一杯で相手の反応を見られなかったり、次の話題につながらなければ本末転倒である。
- 意外な共通点を利用する:シンクロニシティ法
- いつもと違うキャラを演じる:ギャップ法
- 聞いたこともない音を送り出す:変則擬音語擬態語法
- 気持ちよくけなすという高等技術:愛の毒舌法
- 例えツッコミ法
- ひとり芝居法
- 適温下ネタ法
- 雑学プレゼント法
シンクロニシティ法とは、相手と自分との共通点を強引に見出して話を広げていく方法である。相手の職場や趣味、誕生日などを掘り下げていけば何かしら共通点が見つかるらしい。
ギャップ法はそのままである。初対面では難しいかもしれない。
変則擬音語擬態語法は変わった擬音語や擬態語を繰り出す方法である。リスキーではあるが、音ネタに弱い人は一定数いるのでハマれば強い。
愛の毒舌法もそのままである。これも信頼関係がなければできないが、相手がコンプレックスや情けない話を出してきてくれれば使っていけるだろう。
例えツッコミ法は相手の様子を何かに例える方法である。相手の話へのツッコミとしてできるためやりやすい。ラジオや漫才はツッコミのオンパレードであり、流用できる。
ひとり芝居法は落語のように、複数の登場人物を一人で演じ分ける方法である。演じ分けがヘタならそれはそれでネタになるため、試す価値はあるだろう。
適温下ネタ法は程よく下ネタをまぜる方法である。加減が難しいが、お酒が進んでからの方が良いかもしれない。
雑学プレゼント法はそのままである。ネットやツイッターで得た知識を披露しよう。
最後に
前回の記事とこの記事では、雑談をいかにテクニカルに乗り切るかを考えてきた。そこで大事なのは、雑談は話の内容そのものではなく、雑談しているという状態そのものに価値があるということだった。
そして、雑談を通じて互いに互いが尊重されているという意識を持つことができれば、沈黙から生じる気まずさに勝利できるということだった。
そのために、相手に話をさせるための質問の仕方と、聞き方についてまとめた。次に、こちらが話す際の話題選びや構成の注意点についてまとめた。
改めて記事を読み返してみると、雑談というのはかなり複雑なプロセスの繰り返しだということだ。雑談がうまい人(いわゆるコミュ強)はこれを無意識のうちに日々行っていることに驚く。
この記事を読んでいる人の中でも「こんなのは普通だ、今さら何を言っているのか」と考える人もいるだろう。
ただ「コミュ障」はこのような「普通」のことにも苦労する(苦痛を感じる)人であるといえる。
そのため、「コミュ障」がこのような複雑な雑談を一朝一夕にできるようにはならないだろう。
失敗を繰り返しながら(地雷を踏み抜きながら)改善していくものだと思う。
例えば、次の質問を考えるあまり相手の話を聞けなかったり、相手の話に過剰に反応しすぎて胡散臭がられたり、下手にウケを狙って顰蹙を買ったりといったようにだ。
雑談をするのは気まずさを払拭するためなのに、雑談によって気まずくなるリスクがあるのだ。まずはそのリスクを引き受けなければならない。
リスクを分散させる方法としては前置きが使いやすいだろう。質問などの発言の前に「答えにくいかもしれないけど」や「正直に言うけど」と、これから言うことが地雷を踏むかもしれないを分かっているが、あえて言わせてほしいというアピールである。
テクニックに溺れると症状を悪化させかねない。
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