「ビジネスで差がつく計算力の鍛え方」の補足説明を試みる その2

前回の記事の続きを書く。

armik.hatenablog.jp

逆筆算が通じない例

3桁以上の数同士の引き算を計算する際には、普通一の位から引いていく。

一の位まで確定しなければ計算を始められないのは筆者にとって不満らしい。

計算を早くするため、通常とは逆に大きい位から引き算をする「逆筆算」なる方法が紹介されている。

「逆筆算」という言葉は筆者の造語らしく、ググってもこの本しかヒットしないようだ。

3桁同士の引き算の場合、次のプロセスをたどる。

  1. 十の位の引き算を見て、繰り下がりの有無を確認する
  2. 繰り下がりがある場合は繰り下がったものとして百の位の引き算を実行する
  3. 繰り下がりがない場合はそのまま百の位の引き算を実行する
  4. 一の位の引き算を見て、繰り下がりの有無を確認する
  5. 繰り下がりがある場合は繰り下がったものとして十の位の引き算を実行する
  6. 繰り下がりがない場合はそのまま十の位の引き算を実行する
  7. 一の位の引き算を実行する

例として327-178を考える。

  1. 十の位の引き算を見て、繰り下がりの有無を確認する →2-7となっているので繰り下がりがある
  2. 繰り下がりがある場合は繰り下がったものとして百の位の引き算を実行する →百の位は2-1=1
  3. 繰り下がりがない場合はそのまま百の位の引き算を実行する
  4. 一の位の引き算を見て、繰り下がりの有無を確認する →7-8となっているので繰り下がりがある
  5. 繰り下がりがある場合は繰り下がったものとして十の位の引き算を実行する →十の位は11-7=4
  6. 繰り下がりがない場合はそのまま十の位の引き算を実行する
  7. 一の位の引き算を実行する →一の位は17-8=9

よって答えは149となる。 わかりにくい方は本を確認してほしい。

言うまでもないことなのだが、この逆筆算ではできない引き算が存在する。それは

  • 十の位の数字が同じ
  • 一の位で繰り下がりがある

場合である。すなわち、差の十の位が9となる計算である。

例えば361-164をこの方法でやってみると、297が得られる。正しい答えは197である。

百の位の計算において一の位による繰り下がりを考えていないために、このようなミスが起こる。

対策としては、十の位が同じであれば一の位も見る、ということが挙げられる。

しかしながら、これでは「一の位まで確定しなくとも計算を始められる」という逆筆算らしさが損なわれる。

別の案として、そもそもこのような計算には逆筆算をしないというものがある。

361-164を見たときに、十の位の6が同じということに気づけば

361-164=361-161-3=200-3=197

と、まず200を確定させた後に微調整として3を引けばよい。逆筆算の拡張版とでもいえるだろうか。

逆筆算は足し算でも使えると書かれているが、ここで生じた問題は足し算でも起こる。

大きい数同士のかけ算

この本では触れられていないが、比較的大きい数同士のかけ算や割り算をビジネスではよく目にする気がする。例えば十万円の製品を十万個受注したら十億円になる。

十万 百万 千万
十万 百万 千万 十億 百億
十万 百万 千万 十億 百億 千億
百万 千万 十億 百億 千億
十万 千万 十億 百億 千億 十兆
百万 十億 百億 千億 十兆 百兆
千万 十億 百億 千億 十兆 百兆 千兆
百億 千億 十兆 百兆 千兆

全てを頭に入れる必要は当然ないだろう。千×千が百万になることくらいは覚えておいても良いかもしれない。

この手の計算は指数を使えば楽なのだが、指数と実際の読み方の結びつき(10^{8}が億など)に慣れないとすぐには出てこないだろう。

指数を使った場合、指数を4で割ったときの商が桁を、あまりが十、百、千を決める。

また、会計資料で見る千円、百万円単位の区切りは英語準拠らしい。千円区切りの場合は桁を一つ落とせば万と読むことができ、百万円区切りの場合は桁を二つ落とせば億とできる。

大きい数同士の割り算

大きい数同士の割り算の例としては人口密度がある。割り算はさほど難しくはない。

日本の国土面積は約38万km2であり、人口は約1億2000万人である。

日本の人口密度を考える時には

1億2000万人 / 38万km2

を計算する必要がある。面積を40万km2とし、万を約分すれば

1万2000人 / 40km2 = 1200人 / 4 km2 = 300人 / km2

となる。実際には340人 / km2(wikiより)であり、まずまずの精度である。

日本 - Wikipedia

最後に

この本には九去法による検算も載っている。私はこの方法をこの本で初めて知った。その妥当性はwikipediaで解説されている。

九去法 - Wikipedia

もし九去法で合わなければ、その計算は間違っている。

大事なのは、その裏は成り立たないということである。

九去法で合っていたからといって、計算が合っているとは限らない。

この注意点についても本ではきちんと説明されている。

九去法については注意喚起がされているのに、2桁×11や逆筆算については例外について書かれていないのは不親切だろう。

例外を見つけるのが比較的簡単であるために、省いても支障はないと判断されたのだろうけれど。

「ビジネスで差がつく計算力の鍛え方」の補足説明を試みる その1

先日、こんな記事を読んだ。

dutoit6.com

普通は紙と鉛筆(もしくは電卓)を使うような四則演算でも、工夫することで暗算できる、という記事だ。

言われてみれば当たり前のことなのだが、あまり意識していなかったというものが多いので読んでみることを薦める。

この記事で紹介されていたのが「ビジネスで差がつく計算力の鍛え方」である。

この本も上で紹介した記事と同じく、筆算を使うような計算を暗算するための方法などが紹介されている。

本の内容に特に不満はないのだが、気になる点がいくつかあったため、この記事で本の内容を自分なりに補ってみる。

この本を読まなくても内容が分かるように書いたつもりだが、文字式を使った式変形をしているため数学が苦手な方が読む必要はない。

おみやげ暗算法

最初に紹介されるのが「おみやげ暗算法」である。これは2乗の計算にのみ適用できる。例えば

\[25 \times 25 \]

を計算しようと思ったら、一の位の5を足し引きして

\[ (25+5) \times (25-5) = 30 \times 20 = 600 \]

とし、最後に「おみやげ」として足し引きした5の2乗を足してやればよいというものである。

\[ 25 \times 25 = 600+5^{2}= 625 \]

他の例を挙げる。

\[ \begin{align} 68 \times 68 &= 76 \times 60 + 64 \\ &= 4560 + 64 \\ &= 4624 \end{align} \]

なぜこれでよいのかについては本では説明されていない。簡単なのでわざわざ言うべきものでもないのだが、これは中学で習う因数分解の公式

\[ a^{2} - b^{2} = (a+b)(a-b) \]

を使っているだけである。上の式の両辺に b^{2}を足せば

\[ a^{2} = (a+b)(a-b) + b^{2} \]

となる。 b^{2}が「おみやげ」となっていることがわかるだろう。

この公式は実数どころか複素数でも成立するため、かなり汎用性の高い方法である。もっとも2桁以外の使い道はなかなかないと思う。

3桁以上でも零が含まれていれば簡単になるが、そうでない限り2回以上この考え方を使う必要があるため、私の脳内メモリでは足りない。

十の位が同じで、一の位を足すと10になる場合

例えば次の計算である。

\[ 24 \times 26 \]

これは次のように計算するらしい。

  • 百の位: 2 \times (2+1) = 6 (十の位の一方に1を足してかけ合わせる)
  • 十、一の位: 4 \times 6 = 24 (一の位をそのままかけ合わせる)

よって624となる。

これも当たり前の話で、24×26

\[24\times 26 = 20\times 20 + 20 \times 4 + 6 \times 20 + 6\times 4 \]

であるため、整理して

\[ \begin{align} 24\times 26 &= 20\times 20 + (4+6) \times 20 + 6\times 4 \\ &= 30\times 20 + 6\times 4 \\ &= 600 + 24 \\ &= 624 \end{align} \]

とできるのだ。

一般化してみる。2桁の数はそれぞれ10a+b10c+dと書ける。ここでa,cは十の位を表しており、1~9の整数をとる。

b,dは一の位を表しており、0~9の整数をとる。

この2つの数の積は

\[ (10a+b)\times(10c+d) = 100ac + 10(ad+bc) + bd \]

と書ける。 「十の位が同じで、一の位を足すと10になる場合」とは、c=a, \, b+d = 10ということを表しているため

\[ \begin{align} 100ac + 10(ad+bc) + bd &= 100a\times a + 10(ad+ab) + bd \\ &= 100a^{2} + 10a(b+d) + bd \\ &= 100a^{2} + 100a + bd = 100a(a+1) + bd \end{align} \]

となる。a(a+1)が上の例の2\times 3に相当し、bdが24に相当する。bdは81以下なので(bとdは最大9である)、百の位に影響することはない。

「十の位の一方に1を足してかけ合わせる」のは覚えられない気がする。「十の位の2乗にさらに十の位を足す」でも同じ結果となる。

十の位をたすと10になり、一の位が同じ場合

この計算は次のように紹介されている。

  • 千、百の位:十の位同士をかけたものに一の位を足す
  • 十、一の位:一の位の2乗

これはさっきと逆に、a+c=10, \quad d=bという条件である。よって

\[ \begin{align} 100ac + 10(ad+bc) + bd &= 100ac + 10(ab+cb) + b\times b \\ &= 100ac + 10b(a+c) + b^{2} \\ &= 100ac + 100b + b^{2} \\ &= 100(ac+b) + b^{2} \end{align} \]

となる。千と百の位は十の位同士をかけて一の位を足したものになり、十と一の位は一の位の2乗になっている。一の位の2乗は81以下なので、百より上の位に影響しない。

例えば

\[ \begin{align} 18 \times 98 &= 100(1\times 9+8) + 8^{2} \\ &= 1700 +64 \\ &= 1764 \end{align} \]

である。

2桁×11の計算

この計算方法は次のように紹介されている。

  • 百の位:十の位
  • 十の位:十の位と一の位の和
  • 一の位:一の位

そもそも11をかけるということはその数を10倍したものにその数を足す、ということに等しい。複雑ではないため覚える必要はないかもしれないが、一応確認する。

この場合はc=d=1であるため \[100ac + 10(ad+bc) + bd = 100a + 10(a+b) + b \]

となる。これは(a+b)が10未満であれば、百の位がa、十の位が(a+b)、一の位がbとなることを意味している。例えば

\[25 \times 11 = 275 \]

(a+b)が10以上の場合、繰り上がるため百の位に1が加わり、十の位は(a+b)の一の位となる。例えば

\[29 \times 11 = 319 \]

となる。

繰り上がる場合については述べられていない(気づいていないはずがないのでおそらく意図的に伏せている)ため、少々不親切な気もする。

まとめ

文字式を使うことでなぜその方法が成立するかがわかりやすくなる上、その方法の限界も見えてくる。

「おみやげ暗算法」だけが10a+bというような表記をしなくともその妥当性を示せたことから、「おみやげ暗算法」は3桁以上の数にも使えるが、それ以外の計算方法は2桁の場合でなければ使うことができないことがわかる。例えば324 \times 526は「十の位が同じで、一の位を足すと10になる場合」だが、624にならないのは明らかである。

3桁以上の数もこの記事のような方法で表すことができる。3桁同士のかけ算にどのような条件を与えれば2桁の場合のような結果が得られるか試してみるのもおもしろい。

こういうテーマを中学生の自由研究にすればよかったと、今更ながら思った。

経済ってそういうことだったのか会議 第8章 起業とビジネス

マーケットで生き残る企業とは

竹中は、なんのためにこの会社が存在するのかを説明した「ミッションステートメント」が明確にならない限り企業はマーケットで成功しないという。 企業とは、あくまで目的を達成する手段の一つである。さらに言えば、目的を達成するための資金集めの手段の一つである。

ミッションステートメントの達成は一人では難しいことが多い。そのため、人手と資金の両方で他人の協力が必要となる。 ミッションステートメントが固まっていれば、説得も容易になる。

これは研究でも同じである。自分の研究内容や必要性をきちんと説明できなければ外部からの支援は得られにくい。

イメージすること、イメージさせることが企業に必要

では、どうすれば明確なミッションステートメントを得ることができるのか。

佐藤はそれには明確なイメージングが必要だという。今はないが、あれば便利になるものや、今は知名度が低いが人々に知ってほしいものなどをイメージし、それに向かっていくことが大事だという。

補完材と代替材

イメージする上で参考になるのが、補完財と代替財であるという。これは2つの財に関する考え方である。

補完財の場合、2つのものを同時に買うことができる。 一方代替財の場合、2つのうちどちらか1つしか買うことができない。

古い例ではあるが、ファミコンとテレビを考える。これらは両方買うことができるため、ファミコンとテレビは補完財である。特にファミコンは、テレビの別の用途を提供するという意味でテレビの補完だと言える。テレビが普及していなければファミコンが売れることはなかっただろう。 しかしながら、ゲームをしている間はテレビを見ることができない。この意味でファミコン(ゲーム)とテレビ(放送)は代替財とも言える。

このように、見方によってはどちらにも捉えることができる。

スマホアプリはスマホを補完するものと考えれば補完財だが、スマホアプリ同士は代替財である。プリインストールされるようなアプリを作ることができれば儲かることは間違いないが、そのためには他のアプリとの競争に勝ち抜く必要がある。

他人の土俵に乗る

自分でイメージを持っていても、顧客にそのイメージを伝えなければ意味がない。逆に言えば、顧客にイメージさせれば現実がそれに追いつくこともあるという。 たとえ今は小さくとも、大きい敵にケンカを直接売れば対等になるというのだ。

佐藤:カネボウ資生堂の牛耳っている化粧品業界に参入したときの戦略は見事でしたね。資生堂がたとえば10だとすると、当時のカネボウは1ぐらいの売り上げしかなかったんですけれど、資生堂が春のキャンペーンで口紅やると、カネボウも負けじと口紅やるんですよ。(中略)そうすると一般の人には、10対10の会社に見えてしまうんです。10対1の売り上げしかないとは思わないんです。そして、その売り上げもだんだん、少なくとも10対3とか4になるんです。

資生堂に対抗して成長したものの、2004年に売却されたあたり、伸び悩んだことがわかる。 現在カネボウ花王の子会社となっている。花王のビューティケア事業の売り上げは約6000億円であり、資生堂の1兆円に迫っている。

www.kao.com www.shiseidogroup.jp

他にもマレーシアのマハティールが挙げられている。ちなみにマレーシアもアジア通貨危機と無縁ではなかったが、マハティールは金利引き下げを断行するとともに、外貨取引を規制することでいち早く経済を回復させた。これは中国の取った戦略に近い。

マハティールは今年首相に返り咲いている。どのような政策を取るか注目したい。

参入と退出(出口戦略)

ある程度企業の規模が大きくなると、目的を達成したいという情熱だけでなく別の能力が求められるようになるという。それはライバル他社をいかに蹴落とすかということであったり、より多くの従業員を効率的に動かすノウハウであったりする。情熱と経営術を両方持っている人は多くない。起業した本人がCEOであり続ける企業は少ないというのだ。

企業参謀という本では、製品や企業のライフサイクルを成長期、成熟期、衰退期に分け、それぞれで取るべき戦略が変わってくるという主張がされている。

起業家がCEOであり続けることが少ないというのは、それぞれの期間に向き不向きがある(性格的に戦略を変えられない、戦略を変える必要性に気づけない)ということなのだろう。

これが示唆するのは、どこに参入するかということと同じくらい、どうなったら退出するか(出口戦略)を考えることも重要であるということだ。これは成熟~衰退期に取るべき戦略ということである。

成長期にはとにかく忙しく、そんなことを考えていられない気もするが…

出口戦略の例として、ジレットの元会長(おそらくアルフレッド・ザイエン)の話が載っている。

ジレットといえばカミソリの印象が強いが、カミソリは当時の売上の3割ほどであった。ジレットは電池や筆記用具なども販売しており、カミソリだけの企業ではなかったらしい。

ザイエンはコールマン・モックラーの後を受けて会長に就任し、就任後すぐに部門の整理を行ったという。 その時のビジネスの取捨選択には4つの基準は次の通りである。

  • 既存の事業より高成長が期待できる
  • 可能性としてシェア1位になれる
  • 国や地域によって商品を作り替える必要がない
  • 技術開発で製品を高度化できる

この条件に合わない部門は売却したという。 当時は2枚刃のヒットを受け、3枚刃を出したところだった。ジレットは2005年にP&Gに買収されてしまっているが、カミソリは5枚刃になっており、高度化している。

なお、ジレットの会長としてはコールマン・モックラーの方が有名なようだ。日本語にしても英語にしてもGoogleのヒット件数はモックラーの方が多かった。 モックラーの就任期間は1975–91とザイエンの1991-99より長く、就任中に3度の買収危機を乗り越えたことで評判となったらしい。

History of The Gillette Company – FundingUniverse

Alfred M. Zeien - Leadership - Harvard Business School

Gillette - Wikipedia

ジレットほどの大企業となると、新しいことを始めるのはさほど難しいことではない。しかしながら、終わらせるのは難しいという。 一度始めたものを終わらせるには、ザイエンのように条件を決めておくことが重要である。

企業だけでなく個人にも同じことがいえる。人はサンクコストに気を取られる傾向がある(いわゆるサンクコストバイアス)ため、始める前にある程度出口戦略を決めておかなければ後に引けなくなりかねない。

全く関係ないが、vimを初めて触った時、起動はコマンドを入力するだけだったのだが、終了の仕方を知らずに途方に暮れたことがある。 終活も人生を閉じる作業だと言えるだろう。生まれることへの準備はしようがないが、死ぬことへの準備はできるのだ。

最後に

この本は20年前に書かれたものである。ジレットカネボウは当時は大規模であったのだろうが、今ではどちらもグループ会社となっている。そこに時代の移り変わりを感じる。 現在大企業と言われている企業も、20年後にどうなっているかは定かではない。

ちなみに、この記事では企業のライフサイクルを成長期、成熟期、衰退期の3つに分けた。

クレムリン・メソッドでもこの3つに分けており(移行期が衰退期と成長期の間に入っているが)、国家レベルでも同じであることがわかる。

クレムリン・メソッドをまとめておく ~その1~ - armikのblog

企業の形態や戦略は変わるかもしれないが、資本主義経済で世の中が回っている限り企業の本質が変わることはないだろう。

起業するにしてもサラリーマンとして働くにしても心に留めておくとよいのは、企業はあくまで価値創造の手段の一つであるということだ。 価値創造を目的としない企業に将来があるとは考えにくいし、価値創造のために誰かの人生を犠牲にするということがあってはならない。

企業参謀 (講談社文庫)

企業参謀 (講談社文庫)