10代の新入生に薦める『武器としての決断思考』
大学生のうちに身につけて損はないと思うのは、意思決定の方法である。
ここでいう意思決定とは企業をはじめとする社会人のそれを指す。
すなわち、消費者ではなく生産者としての意思決定の方法である。
大学を卒業すればたいていの場合は社会に出て働き始める。その現場でどのような意思決定がされているか、またそれは妥当なのかを客観的に判断するためには一定の基準が必要となるだろう。
この本はその基準となる本である。
とはいえ、内容はよくあるディベートのノウハウである。大きく
- 問いの立て方
- 争点の洗い出し
- 意見の立て方
- 議論の進め方
- 情報の集め方
- 最終的な決定の仕方
に分けることができるだろう。
わざわざこの本を買わなくても、もっと深く、詳しい内容を知りたければ他に本がある。例えば、ディベートに関して言えば
論理が伝わる 世界標準の「議論の技術」 Win-Winへと導く5つの技法 (ブルーバックス)
- 作者: 倉島保美
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/05/21
- メディア: 新書
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は『決断思考』では扱っていない詭弁やダブルバインドへの対策を示している。また、ディベートにとどまらず社会学的な議論の進め方、問いの立て方を示している
知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫)
- 作者: 苅谷剛彦
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/05/20
- メディア: 文庫
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がある。さらに、『決断思考』で扱われている内容を始めに紹介し、それを使って経済学に踏み込んだ
- 作者: 飯田泰之
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2003/12/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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が挙げられる。
これらの本を消化していれば、『決断思考』を読む必要はない。
しかしながら、『決断思考』にあってこれらの本にはないのは、説明の丁寧さである。エントリのタイトルを「新入生に薦める」としたのはこのためである。
『決断思考』は具体例が豊富であるし、主観ではあるがかなりかみ砕いて書いてある(少なくとも上で紹介した3冊に比べれば)。
大学に入学していきなり『知的複眼思考法』や『経済学思考の技術』を手に取るのも悪くはないだろうが、私は持て余した。書かれていることは納得できるのだが、言うは易く行うは難しという感じで、実行に移すのが容易ではない。
その点『決断思考』は具体的な手の動かし方まで書かれているため、とっつきやすかった。私が知らなかったのは3時間目のメリットとデメリットの3条件である。
ディベートをする際には選択肢のメリットとデメリットを比較する。そのためメリットとデメリットの双方を考える必要がある。
メリットが成立するには、以下の3条件が必要になるという。
- 内因性(何らかの問題があること)
- 重要性(その問題が深刻であること)
- 解決性(問題がその行動によって解決すること)
また、デメリットが成立するには、以下の3条件が必要になるらしい。
- 発生過程(論題の行動をとった時に、新たな問題が発生する過程)
- 深刻性(その問題が深刻であること)
- 固有性(現状ではそのような問題が生じていないこと)
単語こそ違うが、メリットとデメリットは対になっている。発生過程は解決性の逆だし、重要性と深刻性は同じことを言っている。固有性も内因性の逆である。
相手に反論する際には、この3つの点に着目して意見を組み立てていくとよいらしい。
ここで私は知的複眼思考法の第2章のステップ2「違う前提に立って批判する」の着眼点がようやく理解できた。ここで挙げられている例は納得はできるものの、どう真似をすればよいのか分からなかったのだ。
この部分では、「近頃の若い男性はふがいない。これは教育のせいだ」という文章に異なる立場(前提)からの反論を試みている。例として次の立場が挙げられている。
- 若い男性の立場
- 女性の立場
- 教育関係者
- 会社経営者
私は初見の時に、反論しようにもどうしたものかとうだうだ考えてしまったのだが、『決断思考』であげたメリットの考えから言えば、
- 若い男性の立場→内因性への反論
- 女性の立場→重要性への反論
- 教育関係者→解決性への反論
- 会社経営者→解決性への反論
であると整理でき、腑に落ちた(具体的にどんな反論だったのかは読んで確かめてほしい)。
このように、『武器としての決断思考』を知っておけば、上にあげた3冊で行き詰った際にヒントが得られるかもしれない。